【受賞】コワくてモテる高杉くんはせわが好き。


 〇せわの部屋

 女子生徒「お帰り〜。二人とも遅かったじゃーん」

 乃亜と理人が座る。乃亜はコップを手で弄びながら、おもむろに切り出した。

 乃亜「せわちゃんってさ、お母さん……いないんだね」
 せわ「……!」

 一同がシーンとなる。

 乃亜「キッチンにあった仏壇、見ちゃった」
 せわ「……うん。実は……私が小さいときに、病気で」
 美波「知らなかった……。ごめん。私、何も事情知らずに色々無神経なこと言っちゃったんじゃ……」
 せわ「ううん。むしろこっちこそごめん。気を遣わせるの申し訳なくて黙ってたの。今は全然平気だから」

 理人は乃亜のことを鋭い眼差しで見た。乃亜は遠慮なく続ける。ちょっと馬鹿にしたように。

 乃亜「えー、じゃあずっと父子家庭だったってことだよね? 可哀想ー。理人がほっとけないのも納得かも」
 女子生徒「確かに。うちもパパと二人暮しとか絶対考えられない。荒れると思う(笑)」
 麗子「ちょっと。そういう言い方はないんじゃない?」

 せわは俯いて、ぎゅうとスカートを握り締めた。

 せわ(お父さんは、お母さんがいなくても一笑懸命育ててくれたよ。可哀想なんて、言われたくない)

 せわが泣きそうな顔をしているのを見て、乃亜はちょっとだけ気まずそうにする。理人が頬杖を着いて、乃亜に言った。

 理人「それ、腹いせのつもり?」
 乃亜「は? 何言ってんの?」
 理人「不愉快だって言ってる。せわ泣かせるくらいなら、帰って」
 乃亜「〜〜〜〜!」

 乃亜は顔を真っ赤にして、「何よっ」と起こりながら部屋を飛び出して行った。乃亜の友達がその後を追いかけていく。

 麗子「せわ、気にしなくていいからね。とりあえず私らも今日は帰るわ。片付け手伝う」
 せわ「ううん、片付けは一人で大丈夫。だから今日はもう……帰って」
 麗子「分かった。また来週、学校でね」

 美波「何があっても私たちはせわちゃんの仲間だからねっ!」

 麗子と美波が家に残り、理人と二人きりになる。

 せわ「理人……。私って、可哀想?」
 理人「…………」

 せわモノローグ(私、気を遣われるのが申し訳なくてお母さんのこと言えないんじゃなくて……)
 せわモノローグ(――同情されるのが嫌だったんだ)
 せわモノローグ(可哀想な子だと思われたく……なかったんだ)

 ぽろっと目から涙が零れる。

 せわ「理人は、私が可哀想だから、傍にいてくれたの……?」

 するりと彼の手が伸びてきて、頬に添えられる。親指の腹で優しく涙を拭われて。

 理人「違う。せわが好きだから。いつも前向きで優しいお前が眩しかった。同情なんかで一緒にいたんじゃない」

 そっと包み込むように抱き締められる。彼の腕の中は温かくて、いい匂いがする。シャツに頬を擦り付けながら泣いた。

 せわ「お母さんに会いたいよ……。理人。本当はたまに、すごく寂しくなるの。お母さんがいるみんなが羨ましくなる。だから、誰にも踏み込まれたくなかった」
 理人「……分かってる。好きなだけ泣いていいから」
 せわ「……うん。ありがとう」

 顔を上げると、理人はまた涙を拭ってくれる。その表情が凄く優しくて。彼の表情を見た瞬間、心臓が跳ねる。

 せわモノローグ(あれ……? 理人ってこんなにかっこよかったっけ)
 せわモノローグ(どうしよう。すごいどきどきする。胸が苦しい)
 せわモノローグ(だめだ。これ以上自分の気持ちを誤魔化しきれない)
 せわモノローグ(私、今気づいたよ。理人のことが――好き)
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