【夜焚きに至る-よたきにいたる-】
「はっ……。はっ……」

 小刻みに吐く息が白い。まるで、真っ黒い目から冷たい冷気が足元に流れているようだ。黒い影の恐怖に息も絶え絶えになりながらも、俺は思考を必死に巡らせた。

 横目に、少し開いている障子の隙間から和室が見えた。ほんの数センチの隙間から、何かがこっちを見ている。

 なんだ? 誰かいるのか!?

「た、助けてくれ!」

 振り絞り助けを求めたが、それもすぐに無駄だと悟った。そう、こちらを見ている誰かは、生きていない(・・・・・・)と気づいたのだ。

 生気の無い顔の、その首元には幾筋ものひっかき傷があった。

「そんな──!?」

 なんで俺がこんな目に!? こいつは、家がなくなったから、こっちに移ってきたのか? そのために、ここの家族を!?

 そうだ、行方不明と死亡者の違いはなんだ? なんなんだ!?

 思考がぐるぐるとして、まとまらない。どうすればいいのか解らず、歯をカチカチと鳴らしていると、頭の中に

「選ばれたかどうかだ」──聞き覚えのない男の声が響いた。いや、男なのか女なのか、そもそも人間なのかすら今の俺には判別出来ない。

 俺は、どれくらい影に見つめられているのだろう。青い炎は増えて、俺のまわりを揺らめき、何も言わない影の目が何かを語っているように思えた。

 何故か「ああ。そういうことか」と妙に納得していた。そして同時に、絶望が心を満たしていく。

 何も出来ない俺を見つめる黒い影が、もう逃げられない、お前は終わりだと笑っているように感じた。

「──っ」

 (まぶた)を硬く閉じた刹那、家族の顔が浮かんだ。しかし、それすらも闇の底に吸い込まれるように、俺の意識は人でない何かに食われていく。

 俺は選ばれたのか、選ばれなかったのか、どちらなんだろう──すでに恐怖も越えて、俺は安らかな終わりに身を浸した──




    終



夜焚き:漁り火のこと
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