HONEYHOLIC(3)リゾートシンデレラ~十月十日の結婚生活。ひと夏の偽恋人でしたが、双子を授かりました~
「おーい…君」

「んっ?」

振り返ると其処には長身でカンカン帽子を被り、白いシャツにグレーの楊柳生地のイージーパンツを穿いたリゾートファッションに身を包んだ男性が立っていた。
目許は黒いサングラスで見えない。
口許は程よい肉厚の良い唇の形をしていた。

「落とし物」

「えっ?」

彼が私にメモ帳を渡した。



それは私が愛良から渡されたネタ帳のメモ帳だった。
「私とした事が…ネタ帳を落とすなんて…」

「ネタ帳?」

彼は神妙に呟き、首を傾げた。

「君はお笑い芸人?」

「いえ…普通の人間です…芸人ではありません…」

「俺は白石樹生(シライシイツキ)」

彼は唐突に自己紹介を始めた。
白石という苗字が心の中に引っかかったが、その場では軽く流した。
「私は狩野恋・・・いえ田中愛良(タナカアイラ)です」

私は自分の名前を隔して、ホテルで予約している姉の名前を名乗った。

此処は沖縄屈指の離島のリゾート地。
彼だって本名を名乗っているどうかは分からない。



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