嫌われ令嬢が冷酷公爵に嫁ぐ話~幸せになるおまじない~
「いけない、お父様に呼ばれているんだったわ。急がないと」

 今朝、従者が嫌味ったらしく本邸に来るように伝えにきたのだった。
 本邸の敷居を跨ぐなど、いつ以来だろうか。

 小屋の近くにある水たまりを鏡代わりとして寝ぐせを直す。
 少しでも自分の見目をまともなものにしなければ。

 くすんだピンクブロンドの髪が痛ましい。
 ドレスはボロボロになっているが、持っている物の中では一番マシだ。

 マイアは痩せ細った指で自分の身体を撫でる。

「いたいのいたいの、とんでけー……」

 寒さが一気に和らぎ、体温が上昇。
 先程まで震えていた体も調子を取り戻した。

 亡き母が教えてくれた「おまじない」
 これがあれば大抵の苦痛には耐えられる。

 このような寒さも、侍女や妹からの暴力も、空腹による飢餓も。
 すべてマイアはこの「おまじない」で乗り越えてきた。

 小さい頃は数回使うのが限界だったが、虐げられているうちに何度でも使えるようになっていた。

 「おまじない」をかけて調子を取り戻したマイア。
 彼女は鬱屈とする気持ちを抑えながら本邸へ向かうのだった。
< 2 / 87 >

この作品をシェア

pagetop