極上御曹司と最愛花嫁の幸せな結婚~余命0年の君を、生涯愛し抜く~
今さら不安になってきて、自宅のパソコンの前で頭を抱える。

「世間知らずがバレないようにしないと。助手席のマナーを調べて……温泉にマナーはあるかしら? 旅館に泊まった経験くらいならあるけれど」

知らないことがたくさんで、調べることもいっぱい。頼みの綱は検索サイト。

そもそもなにを着ていく? 新調する時間もないから、クローゼットの中で見繕わなければ。

「でも……楽しい」

こんなわちゃわちゃする時間すら楽しいと思う。生きているんだって感じがする。

「あの頃は、こんな人生が待ち受けているだなんて思わなかったもの」

世界は窓の外だけで回っているのだと思っていた。

熱を出しては入退院を繰り返し、私は病室から外界を眺めることしかできなかったから。

その中に飛び込めるなんて、思いもしなかった。

「これが私の憧れていた、普通の生活なのね……」

決して自暴自棄ではないけれど、今ここで人生が終わっても悔いは残らないと思う。精一杯生きたと誇れる人生を送れている。

もちろん長生きできるように頑張るつもりではあるけれど。

やっぱり窓の内側にいるのは寂しい。たとえこの身がすり減ろうとも、私も外に出たい。

「叶うならもう少しだけ……」

普通を味わって生きてみたい。そう思うのは贅沢なことだろうか。


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