冷酷と悪名高い野獣は可憐な花に恋をした


漸く離してもらえた時には、息が上がっていて
ハッチと何を話していたのかを思い出すのに時間がかかった


「今夜から此処に住むからな」


「えっ」


「俺が負けを認めたんだぞ?見返りは必要だろ」


「普通反対だよね?」


「んーや、花恋は学校に行きたいが俺は行かせたくない
それを百万歩譲って行かせてやるんだからな」


「横暴」


「クッ、言ってろ」


「でも」


「ん?」


「此処で暮らすなら、ハッチに負担がかかるだけだからね」


口だけ達者な同居人が増えるとか考えただけでハッチが大変


「風吾も呼んだ」


「・・・っ」


「アレは空気だと思ってりゃ良いからな」


言い出したら聞かないハッチをどう懐柔しようか考えるだけ無駄なのかもしれない

それなら、この際思っていることは口にしておこう


「メモのことだけど、あれは山越さんがハッチと付き合いたい為の作戦でしょ」


言葉にするって決めたからには、燻る想いだって伝えたい


「私だって不安なんだからね」


そう言ってハッチを見つめる


形の良い唇が「降参」と動いたあと


「だから、不安に思ったらその度俺に吐き出せよ」


優しくなるハッチの眼差しに胸がトクと跳ねた


「重くない?」


「俺のがもっと重いだろ」


「ハッチと私、似てるのかな」


「似合い、だろ」


噂されているみたいに無口で無愛想で他人に興味のないハッチは私の前では存在しなくて

ただ真っ直ぐ想いを伝えてくれる素敵な人


単なる図書館で出会っただけのイケメンさんが

実は運命の相手だった


なんて


ファンタジー小説でも読んだことのない展開に戸惑っているうちに


シンデレラストーリーに憧れを抱く凡庸な私が


ファンタスティックラブストーリーに巻き込まれるという


奇想天外な日々




「だからな」


「ん?」


「花恋は一生俺のそばにいて
黙って俺に愛されてろよ」


はにかんだ表情でとびきり甘い告白をくれるハッチに


「うん」


私もただただ真っ直ぐありたいって決めたの



って、また一生って言ったよね?



「あぁ、言ったな」


それって・・・


「今すぐ結婚しても良いぞ」


やっぱり、勝てないね


でも


「私、誕生日三月三日」


「チッ」



卒業するまでハッチの願いは叶わないみたい


でも、ハッチ以外考えられないから
やっぱり似ているのだろう



赤い糸?


ううん



もっと、こう・・・太いと思う





「テメェ、なに笑ってやがる」


「フフ」







fin


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