冷酷と悪名高い野獣は可憐な花に恋をした
誤解


━━━━━━土曜日



退院日の今日は午前中に診察すると院長がやって来た


「いいか?無理だけはするんじゃねぇぞ?」


「はい」


「分かってんのか」


「口が悪いですね」


奥さんと一緒に来てくれたから
三人での談笑みたいな診察だったのに
院長は突然口が悪くなった

これもいつものことだから驚かないけど、とりあえず突っ込んでみる


「無理に思い出そうとしなくて良い
ストレスでパニックにならんとも限らんからな」


「自然に任せます」


「もしか思い出したとして、それが辛いことなら俺に電話して来い」


「実は優しいんですね」


「お前は物怖じしないというか
真っ直ぐで可愛いな」


「100%褒められている気がしません」


「まぁ、半々だからな」


「フフ、お世話になりました」


「残りは打ち身と骨折だけだから毎日通院することもないが
木村の母親が手当てできるから頼んどいた」


「何から何までありがとうございます」


「一週間に一回は直接院長室で診察
ギプスは三週間もすりゃ外れるから
それまでは木村をこき使え」


「分かりました」


口は悪いけど院長の言葉には優しさが詰まっているから憎めない


「いいか?もう一度言うぞ」


「はいはい」


「チッ、何も木村じゃなくてもうちでも良いんだからな」


「そうよ花恋ちゃん」


「なんか史上最大のモテ期到来です」


「意味が違げぇだろーが」


「「フフ」」


三年生に進級してから、いや
Dクラスになってから私の毎日は真逆に転換した

それまで学校と寮と図書館と少しの友人だった日々に


沢山の人が加わり行動範囲も広がった


そして、一番不思議なことは
ハッチとの関係


Sクラスでも男子生徒と関わるのは
日直か課題提出の時のみ


国宝級かと思えるイケメンは人外ではなく
東白の図書館で会った友達だという


そのうち思い出せるなら良いか・・・なんて簡単ではないことは

記憶もないのに感じていて




ハッチが来るたび胸が騒ついて



頭を撫でられるたび嬉しくて



抱きしめられるたび泣きだしそうな感情が昂り



『またな』が嬉しくて『またね』と返す口元が緩んでしまうことも



全てはひとつに繋がっていく



「おいっ、」


「・・・へ」


「大丈夫か」


「あ、すみません」


院長夫婦とお喋り、いや、診察の途中なのにトリップしてしまった


「だからな、うちにはまだ売れ残ってる息子がいるから
モテ期到来かどうかは知らねぇが
嫁に貰ってやるからな、忘れんなよ」


えと、どこで話がそうなったんだろう


「院長、話が脱線してませんか
私はまだお嫁には行きませんよ高校生ですしね」


「卒業してからのことだっつーの」


「はいはい、口が悪いですよ」


「フフ、花恋ちゃんの言う通り
急いては事を仕損じるわ、峯さん」


「チッ」


沢山笑って、沢山注意事項を聞かされた診察?は一時間を軽く過ぎていた





< 60 / 113 >

この作品をシェア

pagetop