冷酷と悪名高い野獣は可憐な花に恋をした


ハッチのワガママ発動でお昼ご飯は部屋に運んで貰えることになった


黒いトレーに乗せられてきたのは
ケチャップでハートが描かれたオムライス


コールスローにスライスされたゆで卵が乗ったサラダとベーコンのスープ

スプーン一本で食べられる配慮が嬉しい

更には【デザートは後で】と書いた紙まで挟まっていてテンションが上がった


「このメニューは風吾の親父が作ったやつ」


「え、風吾さんのお父さんって料理好き?」


「元はうちの母親のためのメニューだったが
俺ら子供達は全員好きだな
多分これは歓迎の印だ」


「嬉しい」


「それにしても花恋の小さ過ぎだろ」


ハッチの半分ほどしかないオムライスに文句を言われたけど


「これが普通サイズです」


どこからどう見てもハッチのは特大だ


「そうか?」


ケラケラと笑って
「いただきます」
両手を合わせたハッチを見て


「いただきます」
私も慌てて両手を合わせた


「これ、便利ですね」


「あぁ、だろ」


ベッドに腰掛けて食べられるように
高さを調節できるテーブルが二つ

正座はキツいかと思っていただけに
コレは救世主である


お喋りしながらゆっくりと完食した


「お〜邪魔しま〜っす」


デザートの乗ったトレーを持ちながら
クルッと回って見せた風吾さんの登場で
ハッチの部屋の温度が一気に上がった


「ウゼェ」


「酷い言い方だよね、花恋ちゃん」


「あ、と、ん?」


なんて答えるのが正解なのか考えあぐねてハッチを見る

そんな私に肩を上げて見せたハッチは


「花恋、コレが俺と同居してる家政婦」


風吾さんをコレと紹介した


「・・・っフフ」
同意を求められていたにもかかわらず家政婦と聞いて笑ってしまった


「花恋ちゃん、そこは笑っちゃダメでしょ」


「いいぞ、笑ってやれ」


「若も俺の扱い酷くねぇ?」


「んや、お前の所為で話がややこしくなったんだからな
ちゃんと反省しろよ」


「え、なになに、俺何かした?」


ハッチと私の顔を交互に見ている風吾さんを見ているだけで

なんだか申し訳なくなった


「いえ、私の完全なる誤解で
反省すべきは私だと思います」


「益々分かんねぇけど
上手くいったんだから結果オーライだね」


風吾さんはオーバーアクション気味に親指を立てた


「ウゼェ」


「ほらほら、あんまり言うと
流石の俺も泣いちゃうよ?」


「泣けよ」


「酷いっ」


取り留めのない二人のやり取りにホッコリする

“付き人”って立ち位置らしい風吾さんも
普段は従兄弟同士というラフな関係で
とても仲が良いことが分かる


「ほら、花恋ちゃん笑ってないで
助けて欲しいなぁ」


「楽しそうなので助けるポイントがないですね」


「クッ、だとよ」


「えぇぇ、ここにきて、まさかの
突き離された気分なんだけどー」


二人の会話に混ぜて貰って
またひとつ距離が近づいた気がした



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