冷酷と悪名高い野獣は可憐な花に恋をした



「花恋ちゃんは正真正銘、和哉の子供だよ」


「でも・・・」


「その写真に写っているのは
花恋ちゃんのお母さんの花さんと和哉、それに
和哉の双子のお兄さんの文哉」


・・・やっぱり


「じゃあ」


私がお父さんだと思っていたのは・・・


「これ、見てくれるかな」


向日葵さんのお父さんに渡されたのは戸籍謄本


「・・・っ、結婚して、ない」


亡くなった母は未婚のまま私を生んでいた

目の前に座る近藤和哉さんに認知届が出されている


「和哉はね、ヤクザな自分と結婚したら
花さんの邪魔になると思ったんだよ」


「・・・そんな」


「花さんには絵本作家になるという夢があったからね」


「・・・っ」


そうだ、そうだった
毎日読み聞かせてくれた本は
お母さんが画用紙にクレヨンで描いた紙芝居みたいだった


「花さんが亡くなった時
一度は花恋ちゃんを引き取ろうとしたんだ
でもね、例え養護施設で育ったとしても
ヤクザよりマシなんじゃないかって思い直した」


「・・・」


「その代わり和哉は毎月、毎月“望みの家”に行ってたよ
花恋ちゃんには直接会わなかったけど
違う形で花恋ちゃんを見守っていたんだ」


「・・・、知りませんでした」


「三年前、かな。望みの家の佐田さんから連絡をもらってね」


「明美先生」


「そうだね。
佐田さんは花恋ちゃんの高校入学前に親子名乗りをしたらどうかと」


・・・知らなかった


「その矢先、佐田さんの入院で話が流れた
でもね、東白の寮に入るのなら、このまま見守るのが最善だと考えたんだよ」


「・・・」


正直なところ、なんと答えるのが正解なのか言葉が見つからない


「佐田さんがね“花恋ちゃんは予行練習していますよ”って」


「予行練習、ですか?」


「仁義なき戦争」


「・・・フフ」


・・・あの映画
全ては私の為だった

まだ涙が止まらないカズヤさんは


「怪我をしたと聞いて、居ても立ってもいられなかった」


そう言うとポケットから財布を取り出した

そこには、生まれたばかりの私を抱いている写真が挟んであった


「私も、持ってます」


財布に入れている同じ写真を出した


「親子だね」


向日葵さんのお父さんに言われて
もう一度、カズヤさんを見る


「許されるなら、一緒に暮らしたい」


真っ直ぐ向けられる強い意志に
嬉しい気持ちが膨らむ


会えないはずの“お父さん”が


現れたのだ


「・・・お、父さん」


そう口にした途端、両手で顔を覆って嗚咽を漏らしたお父さんは


向日葵さんのお父さんに頭をグシャと撫でられた


「泣き過ぎだろ、ねぇ花恋ちゃん」


「・・・フフ、はい」


無理矢理笑ってみたけれど
私も涙が止まらないのだから同じだった














< 78 / 113 >

この作品をシェア

pagetop