ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする




……──────


『怖っっ!!
え、っていうかそれ……父親に知られたくなければ私と結婚してくださいってことだろ? 脅迫みたいなものじゃん』

「まぁ……別に目的がばれたわけでもないし、お嬢様が結婚に乗り気ならこっちにとっても好都合なんじゃないか。全経営権も俺のものになるし…もう、今更そんなのどっちでもいいけどな……」

まるで自分の人生に希望なんて持てず投げやりのような物言いをする岳に、神谷は少し危機感を感じ始めていた。

以前の彼なら何の躊躇いもせず、愛のない結婚を受け入れ蓮見 京一郎への復讐を遂げていたのかもしれない。
……ただ、桜葉と出逢ってからは、やり遂げようとしていたはずの復讐と本気で愛した女性との狭間で岳の心は激しく揺れ動いている。

(今更辞めるわけにはいかない、とは言ってたけれど……このままじゃお前、令嬢と結婚して復讐を遂げたとしても自分の心が壊れてしまうんじゃないか…。
って言うか、実は桜葉ちゃんと両想いだって俺が伝えられたら一番いいんだろうけど──今回ばかりは本人同士が伝えないといけないような気がするしな。
……それにしても、久遠、か)

『──それで……蓮見令嬢と久遠さんが一緒にいたのか? いや、でも、それにしても()()()……』

小声で自問自答するかのように神谷が電話口で何やら呟いている。

「蓮見令嬢と…久遠、って?」

岳からの問い掛けで、自分の考えていることが口を衝いて出てしまっていたことに気付いた神谷は、「…あ、いや」と濁すように慌てて口を閉ざす──が、時すでに遅し。
怪しい雰囲気を醸し出す神谷に岳は更に言葉を詰めてくる。

「神谷、お前…何か知っているのか? 蓮見令嬢と久遠に何かあったのか」

その言葉を最後に暫し二人の会話が途切れ、お互いのスマホからはサー…という無機質な音だけが聞こえてくる。
神谷がどんな返答をしてくるか気になる岳は自分も気付かぬ間に、スマホを強く耳へ押しあてていた。
当の神谷も無言でしらを切っていたが、溜め息を一つ吐くのを合図に、観念したかのように口を開き始めたのだ。

『あ~……たまたまさ、今日…見ちゃったんだよね。蓮見令嬢と庶務課の久遠さんが一緒にいるところ』

「別に、まだ交流のある二人なら一緒にいてもおかしくはないだろう?」

『まぁ、それだけだったらおかしいことはないんだろうけど──…あの二人、エレベーターっていう密室で仲睦まじく指を絡ませて恋人繋ぎしていたんだ、それっておかしいだろっ』

「………恋人繋ぎ、ね…」




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