ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする


「院瀬見さんっ! 先程は庇ってくださってありがとうございます。
本当に助かりました」

「あーいや、さっき会議が終わった時にふと、君のことが気になって見に来てみたんだけど…君、こっぴどく叱られてるんだもんなぁ。あんなに大丈夫って大見得切ってたのに」

「…す、すみません…思いの外、時間を取られてしまいまして」

(い、言えない、── あの後、妊婦さんと意気投合して話し込んでしまった……なんて言えない……特に料理長にはっ)

ばつが悪そうにあさっての方向へ目を移す桜葉。
何とも言えないような困った様子の桜葉の姿に岳は思わずプッとまた笑いがこぼれてしまう。

「うそうそ、ごめん。困らせて。
……実は朝、君の言ったことが少し気になってね。食堂に勤めている君が、今日の朝の会議のことを知っているような感じだったから、どうしてかなって思って」

「え? えっと、普通に営業部の社員さんと世間話をしただけなんですが……それに他の部署の方達ともたまにお話しをしますよ。
今日はこんなことがあっただとか、明日はこんなことがあるーとか。
……あっ! もしかして、こんな重要な仕事の話しを交わすのはダメでしたか!?」

「あ、いや…そういうわけではないけれど。君は誰とでも仲良くなれるタイプなんだな」

「いえ、そんなこと──私はただ……色々な人の話しを聞くのが好きなだけで。皆さんの話しを聞いていると自分の知らなかった世界が少しづつ色づいていくような気がして、とても楽しいんですっ」



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