ワケあり王子は社員食堂の女神に恋をする


自分から本気で愛したことのない岳にとっていざ自分にそういう相手ができた場合、どう立ち回れば良いべきかの術を何も持ち合わせていない、要は超がつくほどの恋愛初心者なのだ。

岳はまさに今、その恋愛思考がバグっている。
本気で好きになった女性を前にどう動いたら、どう考えたら良いのかと、思えば思うほど的外れでおかしな思考や行動になってしまっている。

けれど残念ながら岳自身、桜葉を好きだということにまだはっきりと認識できずにいた。

呆気に取られた表情から今はあれこれと真剣に悩む表情へとコロコ変わっていく岳の姿。
見たことのないそんな岳のギャップ過ぎる姿が急に可笑しくなってしまったのか、桜葉は堪えきれずプッと笑いが吹き出てしまったのである。

「プッ…フフッ──…い…院瀬見さんって思っていたよりもポンコツ、なんですね──
あ……! いえ、あの、優秀な社員さんに向かってポンコツって言葉はないですよねっ! さっき、暴言を謝ったばかりなのにす、すみませんっ!」

先程までの緊張した様子とは違い、思わず笑ってしまったことで緊張が解れた桜葉の表情は柔らかなものへと変わっていた。
あんなに最低だ、エセ王子だと岳のことを怒っていたはずなのに何故だか今は憎めなくなっている。

もしかしたらこの人のすること、言っていることに嘘などないのではないか……ただ、器用そうに見えて本当は不器用な人なのかもしれない──そんな風に桜葉の偏見が少しずつ変化しようとしていた。

岳も桜葉の笑顔を目にした瞬間、全身の血管が沸き上がり終いには心臓の鼓動が尋常でない速さで動いてくる。
しかし今まで築き上げてしまったプライドが邪魔をし、女性に動揺するようそんな格好は見せまいと、岳は表向き平然な顔をし話題を元に戻そうとした。

「あ~~、いや、うん、それは全然謝らなくてもいいです。実際、本当のことだと自分でも思っているから。
……それよりもその妙な視線のこと、もしストーカーだとしたら危ないだろうし鳴宮さんさえ良かったらしばらく帰りは俺が送ってもいい?」

(本当に鳴宮さんのストーカー野郎だとしたら、許せないしなっ)




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