じれ恋



出発当日、空港まで紺炉を見送りに来た。


もちろん、みんな一緒に。


「要さん、浮気はほどほどに!」


犬飼が紺炉をからかうように言う。


「ふざけんな。何で俺が浮気する前提なんだよ」


「安心してください、お嬢は俺とイチャイチャするんで。ね?お嬢」


犬飼が肩を組んで私に同意を求めてきたから、私もそれにノッた。


「ねーっ!」と2人で顔を見合わせると、他のみんなが次々と紺炉のことを茶化した。

 
「おいおい俺の味方はいないのかよ!」


紺炉は笑いながら不満をたれた。


紺炉だけじゃなく、来月にはみんながそれぞれの道に進んでいく。


この賑やかさともお別れだ。


「お嬢。ちゃんと食べて、寝て。寝る時は腹に毛布かけるの忘れないように。お嬢はすぐお腹冷やすので」
 

紺炉が私に向き直り、真剣な表情で言った。


「はいはい」


「俺がいなくても、出かけてる時は親父にこまめに連絡をいれること!大学生だからってハメを外しすぎないように!男はみんな自分を狙う狼だと思うこと!」


「それは大袈裟だよ〜」


紺炉はお母さんでもありお父さんでもあり、お兄ちゃんみたいでもあるけどお姉ちゃんみたいでもあり。


時に友達みたいな、世話係だ。


でも、実際はもうそのどれでもなく、昔から変わらない〝私の好きな人〟


紺炉にぐっと腕を引かれ、おでことおでこが重なった。


紺炉がゆっくり目を閉じたから、私もそれに合わせる。


紺炉はおでこをくっつけたまま話し始めた。


「お嬢」


「ん?」


「・・・俺のこと、待っててくれますか?」


さっきの犬飼との話を、紺炉は意外と気にしているのかもしれない。


もしそうだとしたら、紺炉には悪いけどかなり嬉しい。


「もちろん!ちゃんとここで待ってるよ」


紺炉は安心したようにフッと笑った。


「・・・愛してる」


「うん、私も……」


私がそう返事をすると、紺炉は握っていた手を離し、ゲートの向こうへと進んで行った。


いってらっしゃい、紺炉——。


私は紺炉の背中が見えなくなっても、しばらくその場に立ち尽くしていた。
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