じれ恋
「今度学校で文化祭あるんだけど、紺炉も来てよ!」


「あぁ、もうそういう時期なんですね」


予想通り、紺炉は全く来る気のない反応を示した。どうせ犬飼を誘えばいいとか言うに決まってる。


「みんな家族とか他校の友達とか彼氏とか来るの!だから紺炉も来てよ!」


「俺が行ったら100パー怪しまれるでしょ。犬飼あたりがいいんじゃないですか?」


ほらやっぱり。


最近は紺炉の出方がだいぶ分かるようになってきた。


しかしこのまま引き下がるつもりなんて毛頭ない。


絶対に紺炉が行くと言い出す〝エサ〟を用意しているのだ。


「えーーノリ悪いなぁ。ね!紺炉は高校生の頃文化祭とか何やったの?お店?劇?」


「真面目に参加してなかったですからねぇ。なんか食いもんの店やってた気がします」


「そうなんだ〜!私たちのクラスはね喫茶店やるの!何て言うんだっけな……なんか可愛い衣装着るやつ……そうそうメイド喫茶!」


案の定、〝メイド喫茶〟の単語で紺炉がピクっと動いた。


制服や私服ですら、スカートが短いだの露出が多いだのあれこれ小うるさい紺炉のことだ。


メイドの衣装を着るなんて言って大人しくしているとは思えない。


「・・・お嬢も接客するんですか?」


「そりゃするよ!今度みんなで秋葉原に衣装買いに行くんだ〜!」


いいぞいいぞ。


今きっと紺炉の心は世話係として見過ごすわけにはいかないという責任感と、犬飼を推薦してしまった手前今さら行くとは言えないプライドの狭間で揺れ動いてる。


仕方がないから私が助け舟を出してあげることにした。


「ねぇ紺炉ぉ〜ちょっとでもいいから遊びに来れない?」


「・・・分かりました。行きますよ文化祭」


本当は行くって言い出せなかったくせに。


また臍を曲げられては困るので、仕方なさそうな雰囲気を醸し出す紺炉にはあえて何も言わないでおいてあげた。
< 56 / 120 >

この作品をシェア

pagetop