じれ恋



次の日も、そのまた次の日も。


お嬢は何事もなかったように〝いつも通り〟だった。


もう親父に縁談のことは伝えたのだろうか。


そんなこと気にする資格なんて俺にはないのに、どうしたって気になってしまう。


お嬢は受験生として本格的に勉強の毎日で、帰ってくるのも遅い上に家でもすぐに机に向かう日々だ。


どんな顔をして、何を話せばいいのかすっかり分からなくなっていた俺としては、かえってその方が有難かった。


その日、親父は東雲組の組長と会う予定があった。


別件がある相模さんに代わって俺が付いて行くと、東雲組の親父さんの横にはもちろん匠もいた。


間もなく世代交代するという噂もある。


「愛華ちゃん、縁談の話が来てるんだって?」


部屋の外で待機していると、匠は開口一番俺にとって今まさにとてもデリケートな話題を楽しそうに振ってきた。


「・・・あぁ。相手の若頭って、お前のことじゃなかったのか」


「まさか。そりゃ、愛華ちゃんは可愛いけどさ。彼女に想い人がいるのを知ってて、横入りするようなせこいマネはしないよ。それに・・・」


匠は言葉を続けた。


「愛華ちゃんのお陰で、僕も覚悟決められたからね」


一体何の話をしているのかさっぱりだったが、あえてそれ以上は聞かなかった。


ただ、匠は何かが吹っ切れたような、そんな清々しい表情をしていた。
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