草野先生はおとなしくて真面目な草食系……だと思っていた頃が私にもありました~溺愛する相手、間違っていませんか!?~
第4話


〇カラオケボックス(金曜日で合コン中)



大学生の男性五人と女性三人、そして友人の香羅と羽咲の10人がいる。

盛り上がる大学生にあわせてマラカスやタンバリンを手にしている香羅と羽咲。

周囲に気をつかって羽咲は笑顔を浮かべている。



羽咲(合コンって、つまんないな……)



『合コン中!』と最初にみんなで撮った笑顔の写真を敬多へ送ったスマホのメッセージ画面を頭に思い浮かべる羽咲。



羽咲(既読はついたのに、返事がこない……)



カラオケを出ると、またねー、と手を振って大学生たち数名が去っていく。



羽咲「私たちも帰ろっか」

香羅「そだね」



羽咲と香羅が歩き始めようとすると、ガシ、と肩を組まれた。

肩を組んできたのは、先ほど一緒に合コンをしていた五人の男性のうちの三人。



合コン男性1「ね、このあとうちで合コンの続きしよーよ」

合コン男性2「コイツんちひとり暮らしのわりに広いんだよ、行こ行こ」

香羅「ぇー、どうしよっかなぁ」



三人とも爽やかな感じのイケメンなため、香羅の表情はまんざらでもない様子。



合コン男性3「明日土曜だしさ、君たちお互い友達の家に泊まる―って親に言えば朝まで大丈夫でしょ」

羽咲「ぇ、朝まで、って……」



男性のセリフに羽咲は目を見開く。

肩にのせられた男性の腕を振り払おうとするけれど、ガシッと掴まれたまま。



合コン男性1「ぁー途中でコンビニ寄ってこーぜ。アレ、残り一個しかねぇ」

合コン男性2「マジか。俺も財布に入ってる分しかねぇわ。二箱買うか」

香羅「ぇ……?」



ようやく不穏な空気を感じた香羅の顔が青くなる。

羽咲はキッと男たちを睨みつけた。



羽咲「私たち帰ります」



男性たちが口角を片方だけ上げて笑みを浮かべた。



合コン男性3「ぁ、今さら行かないとか言わない方がいいよ」

合コン男性1「俺たち暴走族の元幹部で、怖いお友達がたくさんいるんだー」

合コン男性2「男の人数増やされたくなかったら、おとなしくついてきてね」



香羅は今にも泣き出しそうな表情になっている。



羽咲(どうしよう、私がここで暴れたらとりあえず香羅だけでも逃げられる……?)



振り回すためにバッグの持ち手をグッと握りしめる羽咲。

けれど羽咲がバッグを振り回す前に、よく知っている声が聞こえてきた。



敬多「おやおや、ふたりともこんな所でどうしたんですか。もう高校生には遅い時間ですし、家まで送って行きますよ」

羽咲「せ、せんせ……ッ」



眼鏡をかけて前髪をおろした真面目そうな見た目の敬多が立っている。



合コン男性3「先生……? ぁーふたりともJKって言ってたっけ」

合コン男性1「高校の先生なら知ってんじゃね。俺たち黒危狂乱(こっききょうらん)の元幹部」

合コン男性2「俺らに目ぇつけられたくなかったら、見て見ぬふりした方がいいよ」



羽咲(黒危狂乱……って聞いた事ある。確か暴力沙汰が多い暴走族のチームだ)



ニコ、と敬多が微笑んだ。



敬多「周りを見てから口を開いた方がいいですよ」

合コン男性3「なんだと!?」



敬多に対して顔を近付け眉を寄せた男性の肩を掴み、もう一人の男性が止めに入る。



合コン男性1「ぉ、おい、ちょっと待て」



いつの間にか周りをぐるりと、主に20代後半くらいの怖そうなお兄さんたちに囲まれていた。

驚いて合コン男性の力が抜けた隙に、羽咲は香羅の腕を掴んで走り敬多の背後に隠れる。

怖そうなお兄さんたちがボソボソと仲間内で話している声が聞こえてきた。



怖そうなお兄さん1「黒危狂乱のわけぇのだってよ」

怖そうなお兄さん2「ぁーそんなチーム下部層にいたねぇ」

怖そうなお兄さん3「目障りだから潰しとくか」



その怖そうなお兄さんたちの中から、葬儀の時に敬多と一緒にいた金髪の男性が現れた。



金髪の男性「まぁまぁ、ここは話し合いで穏便に」



ニコニコ笑いながら人の輪の中心に進み、合コン男性たちのそばまでやってきた金髪の男性。



金髪の男性「龍鬼雷伝(りゅうきらいでん)の元副長、昇矢(しょうや)っす。よろ」



その言葉を聞いて合コン男性のふたりが青褪め、もう一人は粗相をしてズボンを濡らした。

チャラそうなイケメンの昇矢はその三人を見て、ニコ、と笑っている。



昇矢「話し合いは必要なさそうだね。みんな解散でいいよー」



昇矢の言葉でみなその場を去っていき、敬多と羽咲と香羅だけが残った。



敬多「ふたりとも帰りましょう。家まで送っていきます」

香羅「羽咲―、怖かったよぉ」



泣きじゃくる香羅を羽咲は抱きしめて頭を撫でている。





〇タクシーの中



後部座席で並んで座っている羽咲と敬多。

敬多は窓の外の方へ視線を向けている。

ふたりの間に会話はない。



羽咲(香羅の家を出てから先生なにもしゃべってくれない。ダメだって言われたのに合コンに行った事、相当怒ってるのかな……)





〇弐句色家のマンションの玄関(夜)



玄関で敬多に両腕を掴まれ壁ドン(ドアドン)されている羽咲。



敬多「男にこうされたら逃げられないだろ。いいか、二度と合コンには行くな」



今の敬多は眼鏡をかけ前髪をおろしたおとなしそうな外見なのに、その視線は獰猛な獣のように鋭い。



敬多「……返事は?」

羽咲「はい……」



鋭かった敬多の視線が少しだけ柔らかいものになった。



敬多「……いい子だ」



そして今度は、敬多の表情が心配そうな顔へと変化する。



敬多「あいつらに何かされてないか?」

羽咲「先生がきてくれたから、何も」



ハァ、と大きくため息をついた敬多が、ポスリと羽咲の肩に頭をのせた。

その距離の近さに、羽咲の胸がドキッと音を立てる。



敬多「すっげー心配したんだかんな」

羽咲「心配かけてごめんなさい……」

敬多「あの辺りカラオケがたくさんあっから、場所特定するのに思ったより時間かかって焦った」



グッと抱きしめられて、羽咲の心臓の鼓動が速くなっていく。



羽咲「せんせ……」

敬多「自分を大切にしろ。お前はクズな俺を見捨てずにいてくれたニク先の宝なんだから」



羽咲(先生が私を守ってくれるのはお父さんの娘だから? それとも……)



羽咲は敬多の背中へまわした手で、きゅ、と軽く敬多のシャツを掴んだ。





< 4 / 6 >

この作品をシェア

pagetop