くちづけ 〜You look good wearing my future〜
いつか倫也が言っていた。

「正直、本当にやりたいことがイマイチ見えてこないから、取り敢えず勉強はそれなりに真面目にやってるんだ。なんか…つまんない男だよね」

そういう本音を、私にだけこっそり打ち明けてくれることが、とても嬉しかったし、実は私だって同じだ。

「そんなことない。私だって同じだよ。ドラムは楽しいけど、だからって正式に軽音楽部の部員になる気もなければ、ましてやプロのドラマーになりたいなんて全く思ってない。好きなことを仕事にするのって、何となく怖いし」

私もまた、倫也には真面目な話を打ち明けられる。

何だって話せる唯一の相手だ。

それなのに、何故か恋心だけは必死で隠そうとしてしまう。

恥ずかしいことではないと、頭では判るのに。

似た者同士だから、居心地がよくて、ずっと一緒に居たいと思う。

逆に、似た者同士だからこそ、倫也には、私より先に大人になって欲しくない、などという我儘な思いもある。

柄にもなくセンチメンタルになるのは、秋のせいだろうか。
< 43 / 139 >

この作品をシェア

pagetop