龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?
デビュタント


「さ、どうだ!アタシ渾身の自信作だぜ」

おばあさまが自信たっぷりに言うのもあたりまえだ。
ドレッサーの前に座ったあたしは、まるで別人のように見えたから。

オフショルダーの白いドレスは裾の広がりがあるAラインデザイン。シンプルだけど裾や袖に細かな刺繍がなされている。スカートには一枚だけオーバースカートを重ねて、小花を散らしたようなドレスに仕上がった。

このところ伸ばしていた赤い髪はおばあさまの手で綺麗なアップスタイルに。コンプレックスだったごわごわのくせ毛が嘘のようだ。

そして、生まれて初めてお化粧をした。
今までおばあさまは“化粧は大人になってからするもんだよ”と、化粧道具には一切手にも触れさせてくれなかったから。
肌色に合わせたファンデーション、赤い髪に合わせた口紅、まぶたにもラインが入って…まつ毛までボリュームアップしてるし、鼻も高く見える。
なにより、そばかすが綺麗に消えた。

「……すごい、魔法みたい」

あたしが驚きのあまりそう言うと、おばあさまはあっはっは!と豪快に笑う。

「そりゃあそうさ。アタシの腕がいいからな…だがまぁ」

おばあさまは選びに選んだネックレスを後ろからはめて、パチンと金具を留める。

「あんたのもともとの素材がいいからさ!アンタはアタシの自慢の孫さ」
「でも……おばあさま、あたしは……本当は……わぷっ!」

あなたの孫じゃない、と言いかけた口に、いきなりハンカチが当てられた。

「ほれ、口紅塗りすぎた。しばらく噛んでな」

余計な口紅を落とすために軽くハンカチを噛むと、おばあさまはニヤリと笑う。

「アタシには関係ねえ。アタシにはあんたがかわいい孫…それだけが事実さ!だから、胸を張って行っておいで!」

バン!と背中をぶっ叩かれて前のめりになったけれども、おばあさまなりの励まし方だから「はい」と返事をした。

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