龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?

恥ずかしくなってあたしが手を引っ込めようとするのに、ヴァイスさんは強く手を握りしめてそれを許さなかった。

「恥ずかしくなんて、ありませんよ。あなたの手は苦労と努力を重ねた証……あなたが一生懸命に生きてきた証しではありませんか。私は、どんな綺麗な見た目の手よりも、あなたの手の方が好きですよ。あなたの生き方そのものですから」

そう告げたヴァイスさんは、さっきの爪にもう一度キスをする。

「この爪も」

そして、目立つ手のひらの傷や指の傷にも口づける。

「この傷も……あなたが自ら危険を顧みず他の生命のために生きてきた証……だから」

最後に、手の甲にゆっくりキスをした。

「私は、あなたの手が好きです」

そんなはずはないのに……まるで、あたし自身を“好きだ”と言われたように、全身がドキドキして頭が真っ白に、ふわふわになる。

口づけられた場所がほんのり熱くて……

なんだか変なことを口走りそうで、怖くてきゅっと唇を引き結んだ。

キシッとドアの外から軋む音が聴こえた気がするけど…。注意を払おうとした途端、ヴァイスさんに呼ばれた。

「アリシア」
「……はい」
「明日、公休日でしたよね?」
「は、はい」

思考がうまく回らないけど、なんとかそれだけ返せば、ヴァイスさんはとんでもない提案をしてきた。

「では、デートしましょうか」
「……はい?」

満面の笑みでにこやかに言われ、意味を理解するまでに数分はかかった。

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