カマイユ~再会で彩る、初恋
合鍵


「美味しいぃぃぃ~~っ!!照り焼きなのに鮭って……先生、天才!」
「口に合うようでよかった」

洗い物を減らしたくて、ワンプレートにしておいた。
どうせ『洗い物は私がします』とか言いそうだし。

鮭の照り焼き、ポテサラ、蓮根のきんぴら、きのこのマリネ、わかめスープ、カットフルーツ。
そんなにたくさんの量を食べれる子じゃないから、ワンプレートの中で栄養素をフルに摂れるようにした。

美味しそうに食べる姿を見るのは、贅沢すぎるな。

「いつから一人暮らし?」
「五年くらい前?……最初は池袋のワンルームだったんですけど、さすがに通勤に時間がかかるんで、羽田に近い品川にしました」
「その部屋には北川たちも来るんだろ?」
「はい。……あっ」

きんぴらを箸でつまんだ彼女の手が止まり、不安そうな視線が俺に向けられた。

今の会話の中で、俺の気持ちが伝わっただろうか?
俺の家に何度も彼女は来ているけれど、俺は未だに彼女の自宅を知らない。
送り届けようとしても頑なに断られ、場所さえ教えて貰えない。

けれど、十年以上の付き合いで、夜遅くに電話をかけてくるような男友達がいるのも知っている。
そいつらも俺の教え子なわけだけど、嫉妬しないはずはない。

『佑人』と下の名前を呼び捨てにし、スマホの登録も『佑人』になってる。

俺が決して割り込めない『同級生』という特別な枠組み。
いい意味でも悪い意味でも、今の彼女をずっと見て来てるだろうから。

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