山寺兄弟の深すぎる愛
それから電車が来て、三人が乗り込む。

通勤や通学の乗客が多い中を縫うように、奥に入っていく。
風龍と虎空に両側から手を繋がれ、引かれる祭理。

反対側の窓側に立つ。
そして窓際に祭理を立たせ、庇うように風龍と虎空が立った。

「祭理」
「“また”なんかあったら、すぐに言うんだよ?」

「う、うん…」
意味深に見下ろす二人に、祭理は頷く。
表情は強張り、繋いだ二人の手を無意識に握りしめた。

「祭理、大丈夫だからな!」
「僕達がいるからね!」
安心させるように微笑んでいる、風龍と虎空。

祭理は再度頷くが、内心は怯えていた。


祭理は昔、痴漢に遭ったことある━━━━━

高校二年生の時だ。
高校も、電車通学だった三人。

沢山の乗客の中にいつものように立って乗っていた、祭理。
風龍と虎空と他愛ない話をしていた。

突然、尻に違和感を感じた祭理。

『…………ん?』

『どうした?』
『祭理?』

『ん?ううん!』

ただ単に、電車の揺れで誰かの手が触れたのだろう。
気に止めなかった、祭理。

しかし━━━━━━━
(…………え…さ、触られてる……?)

明らかに、尻を触られている。
初めての経験とあまりの恐怖に祭理は、声が出なくなる。

『祭理?』
『まつ━━━━━』
バッと咄嗟に風龍と虎空の服を掴み、訴えかけるように見上げた。

『『え……』』
『祭理?』
『祭理、ほんとどうしたの!?』

『………お…り…』

『は?』
『おり?』

『お…し…触…助け、て……』
極々小さく、消え入りそうな片言のような祭理の声。

しかし風龍と虎空にはそれが何を言っているのか、はっきりとわかった。

ガッと、風龍が祭理の尻を触っていた手を掴んだ。
『おい、何やってんだよ……!?』

そして力の限り、握りしめた。

『ギャァァァーーー!!!?』
風龍の凄まじい握力に、思わず奇声をあげる男。

車内に響き渡った。

乗客達が“なんだ、なんだ”と言い出し、車内が騒然となる。

電車が停車駅に止まると、虎空が声を張り上げた。
『そこ退け。道を開けろ……!』

バッと乗客が左右に別れて、ドアまでの道が開く。

男の手を掴んだまま風龍が降りて、続いて震える祭理を支えながら虎空が降りた。
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