あんたなんかもう好きじゃない

DAY1



_雅也と付き合ってもう何年?
え、3年!?長くない?
もうさ、卒業したら結婚するんじゃないの、あんた達。
結婚式には呼んでよね、絶対行くから!


長持ちする恋愛をしていることに感嘆と羨望の眼差しを向けられるたびに、雅也との付き合いの長さを話題にされるたびに、私の心の奥底にはひんやりとしたものが澱のように溜まっていく。

正直、今日の女子会には参加したくなかった。
今年に入ってからというもの、何一つ上手くいっていないのだ。

就活は行き詰まっていて、大学4年の夏だというのにどこからも内定を貰えていない。
卒論の進捗状況も思わしくない。
何より、夏休みに入ってから一週間以上経つのに、まだ一度も雅也から連絡が来ていない。

ワンルームの狭苦しい自宅に引きこもり、卒論なり就活なりをやらなければとこぼす私を無理矢理引っ張ってきたのは、同期で1番仲が良い沙也香だった。

〝こういう時だからこそ外に出なきゃ!気分転換だって必要だよ〟

沙也香の意見に、確かにそうかもと頷いた。

気分転換と現実逃避を混同した結果、一度は欠席の連絡をした女子会に、やっぱり行けると返信し、今私はこの場に居た。
しかし、気分転換どころか家を出る前よりも気分が落ち込みつつある。

抱えている問題が何一つ解決していない状態で遊んでいても、まったく楽しいと思えないのだと思い知らされただけだった。


(やっぱり帰った方が良いかな。いや、もうすぐデザート来るし、それ食べてからの方がいいかな?抜けるには変なタイミングだし……)


どうにかして、みんなの気分を害することなくこの場を離れたい。
しかしどこで実行するか、また悩み始めたその時だった。


「あ、真尋(まひろ)先輩ちょっと遊びに来るって!あと5分で着くらしいよ!」


その名前がどこからともなくあがり、にわかにテーブルが活気付く。
齋藤真尋は、楓を始めとしたこのテーブルにいる全員が所属する〝美術研究サークル〟の前リーダーである。
そして、私と雅也を引き合わせた張本人でもある。

彼と久しぶりに会って話すことで、雅也との関係を変えられたら。

そう思いつき、私は真尋先輩の到着を今か今かと待った。

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