あんたなんかもう好きじゃない


品定めするかのような無遠慮な視線が、頭のてっぺんから膝まで走る。
じっくりと私を眺めた後、真尋先輩は唸るように呟いた。

「信じらんねえ……あいつゲイなのか?それとも男性機能に問題があるのか?」

「たまに自己処理した形跡があるから、機能に問題は無いと思います。ただ、私が相手だとその気になれないってだけで」


思えば、初めて共に夜を過ごした時から違和感があった。
キスはしても決して目を合わせようとせず、前戯の時には一切向き合うことがなかった。
挿入してからもきつく抱きしめてくるだけで、まったく顔を見ないまま終わった。

互いに初めてだから、と感じた違和感に蓋をしたまま、私は二度目も自分から誘った。
しかし、二度目はあえなく失敗した。

〝ごめん、今日はちょっと無理そう〟

苦しげにそうこぼした声、まったく反応していなかった身体、冷めた体温、私はそれらすべてをいまだに覚えている。

女性としての価値を全否定されたような気持ちになって、しばらくの間私は落ち込んだ。
そんな私を見かねて慰めはするけど、やはり雅也は私を求めない。

そうしてやがて、性交渉の無い生活が当たり前になっていき、月日が経つにつれ私の中では焦燥感や絶望感が積もりに積もっていった。


「私のことをどう思っているのか、なんで抱いてくれないのか、聞きたいけど勇気が出ないんです。怖いんです。好かれている自信がないから、踏み込んだことを話せない」

「俺が水沢に探りを入れようか?」

「良いんですか?」


食い気味なその返事に、先輩は真剣に頷いた。

「お前たちを引き合わせたのは俺だからな。こんな話しを聞いて放置なんか出来ねえよ」

そう言ってもらえて、暗く澱んでいた気分が少しだけ晴れた。

「ありがとうございます。助かります」

もっと早く誰かに助けを求めたほうが良かったのかもしれない。
今さらだがそう思いつつ、私は梅酒を口に含んだ。

「それにしてもわからんな」

「何がですか?」

「こんな良い女を前にして食指が動かないなんて、俺には理解出来ん」

世間話でもしているかのようなノリで投げ込まれたその言葉の意図を咄嗟に図りかねて、私はただ目を見開き固まるしかなかった。

「や、やだなあ、そんなリップサービス、真尋先輩らしくないですよ!」


精一杯明るく流そうとするけれど、出来ない。
先輩がいつになく真剣な面持ちだったから。


「リップサービスなんかじゃなくて、俺は本気で藤沢のこと良い女だなって思っている。出会った時から今まで、ずっと」

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