僕を忘れたあなたへ
___どこで僕は間違えてしまったのだろう
 そんな思いを抱えながら僕は死ぬまで君を想うことしかできないんだ


 その日、ある田舎町にそれはそれは天使のようにきれいな顔をした男の子が誕生した。田舎ではめったに見ないようなその美しい容姿に両親のみならず、村の人々は魅了され、そして彼を愛した____彼女を除いては。
彼は成長していくうちに自分の容姿が優れていることを自覚し、そしてそれをとても嫌悪した。両親も村の人も、誰もかれもが彼の容姿を褒めたたえ、自分の内面を見てくれる人などいないのだと嘆いた。しかし、ある時彼は彼の容姿に全く興味を示さない彼女に出会った。初めて自分の内面を見てくれる人に出会え、彼は喜びを覚えて次第に彼女に惹かれたいった。それは彼にとって、自明の理であったのだろう。
 彼は成長しても彼女に四六時中ひっついて回り彼女に愛をささやいた。彼女の平凡な容姿をみて、一部の若い女たちは嫉妬と非難を彼女に浴びせたが、彼の長い片思いを知る村の人々はもそれをほほえましく見守り、婚約寸前の二人だと考えていた。もちろん、彼自身もそう思っていた。しかし、何度アタックしても彼女は全く靡かなかった。そんな彼女に対して、彼は次第に焦燥感とイライラが募っていった。彼は村のみんなから愛され続けたため、自分を拒否する存在などいないと考えていたのだ。そこで、彼は彼女が19歳になった歳に彼女を襲い、妊娠させ強引に結婚に持ち込んだ。それでも最初は幸せだった。家事と育児を両方こなしてくれる素晴らしい大好きな妻と、『パパ、パパ』と自分によって来てくれるかわいい子どもたち___彼女も結婚当初こそ怒っていたが、子供たちを愛おしそうに見つめる顔から彼女も幸せと信じて疑わなかったのだ。あの日が来るまでは。



 「ふわぁぁぁぁぁぁぁぁん、わぁぁぁぁぁぁぁぁん」
仕事から帰ってすぐに聞こえる2歳の娘の声。何事かと思い急いで家に上がると、家の中はまるで強盗にでも入られたかのようにものが散乱していた。何があったのかと心配しつつまず娘を抱いたあと、姿の見えない妻と長男の姿を探すと2階の寝室から二人の声がした。よかったと一安心した次の瞬間に、目に入ってきた光景に驚きと怒りを覚えた。なんと、長男が部屋の端で体を丸めてえぐえぐと泣いていたのだ。何をしているのだと、もしかして暴力でも振るったのではないかと、僕はベットの上に座っている妻に問いただした。今思えば、あの時妻は何もわからず混乱していたのだろう。しかし、怒りで目の前が真っ赤になっていた僕は何も言わず黙っていた妻に堪忍袋の緒が切れ、頬を叩いて「出ていけ!!」と怒鳴った。少しした後に、彼女はどうしたらいいかわからない、といった泣きそうな顔をしてフラフラとその場を立ち去った。彼女はあんなにこどもを愛していると思っていたのになぜ、とこんなに泣いている子どもがかわいそうではないのか、と怒りと悲しみでいっぱいになったが、誠心誠意謝ってくれたら許そうと思った。そんな日は二度と来ないのに____

 彼女が家を出て1日経って、2日経って、1週間経って____おかしいと思ったんだ。頬を叩いたのはさすがにやりすぎたと、僕も謝ろうと思った。子供たちも落ち着き、ママに会いたいとねだるようになった。仕事あと子育てと、家事と、忙しくて妻を探せないことに理由をつけそのあとだ。ある日、妻が隣町で見つかったという話を聞いた。僕はうれしくて、妻の居場所を教えてくれた親切な人の忠告もまともに聞かずに、すぐ彼女に会いに行った。しかし、彼女は僕を見て一言「だれ?」と言い放った。彼女は僕のことも、子供たちのことも、すべてを忘れていた。僕はショックで、そのあと妻と何を話したかも、どうやって家に帰ったかも覚えていなかった。
そして月日は流れ、気づけば二人の子供は王都にある中等部の学園に進み、私は一人暮らしの身となった。今も僕の隣に妻はいない。あの時の妻の一言が、自分を見つめるおびえる目が、僕はトラウマになっていた。そんな風に混乱していた中でも、今の妻をこどもに会わせるべきではないと、冷静な判断ができたことはよかったと思う。あんな悲しい思いをするのは僕だけでいいんだ。。僕は相変わらず容姿だけはよかったから、後妻になろうと再婚の話はたくさんあったがすべて断っていた。こんなに妻におびえていても、今でも心から妻を求める自分がいる。だから、一人だと寂しいだろうと、そんな風に気を遣って帰省した娘の心持ちがうれしくて、二人で隣町に外食をしたのは偶然だったのだ。そこで見た、幼いの男の子を抱いた背の高い男と幸せそうに見つめあう妻の姿を見たのも__偶然だった。

 ____「お父さん、何じっと見てるの?」
娘に話しかけられるまで僕はまるで時が止まっていたかのように、妻たちを凝視していたようだ。目を離さなければいけないことはわかっている。それに、これ以上彼女たちを見つめても自分が傷つくだけ、ということも。だけど、彼女から、彼女が隣の男に見せる見たこともない幸せそうな顔から目が離せなかった。そりゃ、当たり前だよな、、、だって、無理やり結婚させられて、好きでもない男の子供を産んで、その日々のストレスで自分のすべてを忘れてしまった可哀そうな妻。自分のわがままで人生を壊された妻。そんな自分より、隣の男のほうが幸せにしてくれるんだろうな。頭の中で警告が鳴っている。これ以上妻を見ていれば苦しくなるだけと、本能が警告する。自分の心臓がすごく早く動いているのを全身で感じる。冷汗が止まらなくて、なにより彼女がほかの男と幸せになっている姿を見るのがつらいと、心が泣き叫んでいるようだった。彼女が、世界が、まるですべてゆっくり進むようで、周りの悲鳴も周りに助けを求め泣き叫ぶ娘の声さえも、シャットダウンされ自分の鼓動だけが頭に響いていた



___「あなた?」
妻が僕を呼ぶ、そんな幸せな幻聴が聞こえた気がした。
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