白い嘘と黒い真実

彼女は高坂部長の名前も知っていた。

つまり、やっぱりあの時道端で会ったのは偶然ではなく、桐生さんは彼のことを見張っていたということ。

そして、澤村さんと同じように気をつけろという警告の言葉。

裏組織を取り締まる人間がそう言うのだから、その重みはかなりあるのかもしれない。


……ということは、高坂部長はほぼ確定で黒だということ。


それが分かった瞬間体の力が一気に抜け落ち、私は頭を抱えながらカウンターに肘をついた。

この結末に辿り着くことは始めから分かっている。
澤村さんの反応を見れば、桐生さんに確かめずともそうだと心の奥底では確信していた。
それでも、彼の人柄を見て、紗耶の幸せそうな表情を見て、それを否定したかった。

でも、やっぱり現実はそんな甘くない。
そもそもとして甘い現実なんて何一つなかったくせに、私はまた懲りもなく希望を抱いていた。

けど、今ここで決着が付いた以上、もう悪あがきは出来ない。

そう思うと、悔しさが込み上がってきて、自然と涙がこぼれ落ちてくる。

全部分かっていたはずなのに、改めて人から言われるとショックを誤魔化しきれなくて。
私でさえこんなに辛いのに、紗耶がこの事実を知ったら一体どうなってしまうのか今から考えるだけでも怖い。

ただ、例え高坂部長が暴力団組織に関わっていたとしても、根っからの悪人だとは限らない。
そうじゃなきゃ、あそこまで紗耶や私のことを気に掛けてなんてくれないだろうから……。


この話を澤村さんにしたら、また考えが甘いと怒られてしまうかもしれない。
結局、何も成長していないと呆れられてしまうのだろうか。

でも、それでも私はまだ信じていたい。
あの優しさと思いやりが偽りだなんて、絶対に認めたくない。

それ程彼のことが人として好きで、紗耶が選んだ大切な人だから。

そう願いを込めて、私はこの現実を真摯に受け止めるのと同時に、今後紗耶にどう切り出せばいいのか頭を悩ませながら、とりあえずこの薄気味悪い場所から一刻も早く離れようとこの場を後にしたのだった。

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