白い嘘と黒い真実
調理班と合流して早々、お皿いっぱ盛られた肉の塊とカットされた野菜を竹串にさしていき、その作業が終われば大量に用意された肉を焼いていくという無限ループ。

他部門の人との親交を深めるのが社レクの醍醐味なのに、参加者数の割には明らかに人手が足りていない調理班の私達にそんな意義など関係ないと言わんばかりに働かされる始末。

お陰で紗耶とも殆ど会話をすることが出来ず、周りから肉よこせコールが鳴り止まない中、私は汗水垂らしながら、なかなか減らない肉をひたすら焼き続けた。

その合間に高坂部長の様子を探るため周囲に視線を向けると、探さずとも一目で分かる彼の所在。

一際女性社員が集まっている中心には彼の姿があって、普段から女性社員に囲まれているのに、今日は独身者が多いからか。尚の事彼女達の勢いはとどまることを知らず、側から見ても少し怖い。

穏やかな高坂部長も流石に疲労が出始めたのか、いつもの爽やかな笑顔に若干の影が見えるような気がした。

一方、紗耶も若い男性社員からひっきりなしに話しかけられていて、こっちはうんざりしてるのが手に取るように分かるくらいの明からさまな態度に、似たもの同士だけど両極端な二人が少しだけ可笑しく思える。

しかし、朝からずっと紗耶と高坂部長を注視しているけど、二人が一緒にいる所をまだ一度も見ていない気がする。

紗耶から彼の話を持ちかけることもないし、私も積極的に話すことはしないので、不自然なくらい話題にも挙がらず、紗耶は彼の元へ近付こうともしない。

もしかしたら、既に高坂部長の方から別れ話を切り出されたのだろうか……。

けど、それなら私に話があっていいような気もするし、そもそもとして紗耶の様子が普段と何も変わらない。

それなのに、この二人の違和感は一体何なんだろう。

私は一人悶々としながら引き続き二人の動向を確認しつつも、少しでも手を緩めると周りから苦情が来るので、この劣悪過ぎる労働環境の下、普段の倍以上の働きに目が回りそうになった。
< 170 / 223 >

この作品をシェア

pagetop