白い嘘と黒い真実
「それよりも、なんで俺の事情を知ってるんですか?それに昔助けたって、一体何の話ですか?」

とりあえず、用は済んだので直ぐにこの場を退散しようとした矢先、いつもならさっさと部屋に戻っていくのに、今日は逃さまいと。
あの鋭い眼差しで私の目を捉えるようにじっと見つめてきて、避けたかった話題に触れられてしまい、ぎくりと肩が小さく震える。

「あの……えっと……」

ここをどう切り抜けるか色々思考を巡らせてみたものの、以前取り調べを受けた時と同じような目で見られてしまっては、もはや言い逃れなんて出来ない。

「す、すみません!澤村さんが同僚の方と家飲みしていた時、ベランダで洗濯物を取り込んでいたら偶然会話が聞こえてしまって……」

ひとまず、思いっきり盗み聞きしていましたとは流石に言えないので、オブラートに包んで当時の状況を説明すると、澤村さんは表情一つ変えずに私の話を黙って聞いていた。

「……そうですか。まあ、聞かれてしまったのなら仕方ないですね。そういうことなので、あまり私生活には関わらないでください」

それから、開き直るように冷たく突き放されてしまい、分かってはいたけど、やっぱりショックは大きくて私は唇を噛み締める。

「これも全部澤村さんのせいですから!」

そして、気付けば感情に任せて口を滑らしてしまい、私はしまったと掌で口元を塞ぐも、彼の訝しげな視線がグサグサと突き刺さっていく。

「さっきから何ですか。椎名さんとは警察署以外で会った記憶はないですけど」

しかも、いつぞやのストーカー犯を見るような不審な目を向けてきて、またもや変な誤解をされている気配を感じた私は、この際全てを話そうと決意した。

「澤村さんって、小学校の頃私の田舎に住んでいた時期がありませんでしたか?その時、一緒に遊んでいた子が崖から落ちて、一番最初に見つけてくれたと思うんですけど……」

ああは言ったものの未だ確証が持てないところはあるので、内心ドギマギしながら恐る恐る彼の様子を伺う。

「……ああ、そういえば、そんなこともありましたね。もう殆ど覚えていないですけど。確か女の子だったような…………もしかして、その落ちた子があなたですか?」

けど、否定することなくあっさりと認めてくれたので、私は内心ホッとするのと同時に、改めて信じられない偶然に驚きながら、澤村さんの問いかけに対して徐に頷く。


「………………マジか」

すると、澤村さんの目が大きく見開くと、暫くその場から動かなくなってしまい、ついでに言うなら焦点も定まっていない。
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