劣化王子(れっかおうじ)

第十三話:ブランク

あの花火大会の日からユノのことを考える時間が増えていると思う。

宿題をやっていても頻繁に思い出してその度に手を止めていたし、プールで泳いでいたときもしずちゃんから言われたの。今日はユノくんの話が多いね、って。

暇なときはインターネットでアメリカのことを調べていた。日本との時差は17時間で、日本のほうが早いんだって。

8月になってからは新学期を心待ちにする自分もいた。

もしかしたら、また「好き」が戻ってきたのかもしれない。


◇ ◇ ◇



新学期が始まる今日、わたしは朝から緊張している。パンも半分を残して家を出たんだ。

会うのは、花火大会以来。あの日は帰り道でもドキドキしていて、会話もそんなに続かなかった。

そのことを思い出し、“どんな顔をして会えばいいのかな”と考えながら登校したの。

「しずちゃん、これって目の錯覚? ユノが前よりも大きくなってるような……」

「錯覚じゃないよ。彼、また太ったみたいね」

「……嘘でしょ」

錯覚であってほしかった。

昇降口に入る前、靴を履き替えているユノを見て、ぞっとする。

「日焼けしてくるならまだしも……太ってくるなんて……」

「肌は焼けてないね。まぁ……向こうの料理はカロリーが高いし、太るのも仕方がないんじゃない?」

しずちゃんの言葉で、ジャンクフードについて熱く語っていた以前の彼を思い出す。

「痩せる気ないよね、ユノって」

「まぁまぁ。もう気にしてないんでしょ? 体型は」

「……気にしてないけどさぁ」

口を尖らせるわたしをしずちゃんはクスクス笑う。

ふうと息をつき、気を取り直して、まだ靴箱の前にいるユノに声をかけようとした。

ところが、

「ピカルンピカルン! ピカピカルーン!」

……ん、何……今の。

ユノのそばには見かけないツインテールの女の子。

星の飾りがついたペンを振り回し、妙な言葉を囁いている。

「あ、果歩ちゃんおはよう! 松本さんも!」

「……おはよ」

「おはよう、ユノくん」

怪しんで立ち止まっていると、ユノが気づいて声をかけてきた。

すると、ツインテールの彼女は眉を寄せ、わたしたちの間に入ってくる。

「もう! 湯前くんっ! 今、ピカルンと話している途中でしょー?」

彼女は高い声で可愛く叫び、頬をぷうっと膨らませた。

わたしとしずちゃんは静かに顔を見合わせ、アイコンタクトを取る。

それから数秒後、

「……しずちゃん、そういえばさ……2学期はスポーツ大会があるんだよね?」

「うん。……来週からじゃなかった?」

「え、そんなに早いの? もうすぐじゃん!」

目と目で会話した結果、“関わらないでいよう”ということになった。

けれど、

「あ……オレも一緒に……」

「湯前くーん! まだ話が終わってないのー!」

あの子、誰? ……ユノのことが好きなのかな?

ユノはまったく相手にしてなさそうだけど、ちょっと気になる。

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