劣化王子(れっかおうじ)

第十六話:こころの傷

しずちゃんいわく……どうやらわたしは、面倒くさい人に好意を持たれてしまったようで……。

「刺激的な夜を、キミにプレゼントするよ」

キラオ先輩はわたしの髪に触れ、満足げに囁いてくる。

「……え?」

一緒に行こうよ、ってこと……?

「遠慮はいらない。僕なりにキミの気持ちには応えるつもりだから」

“遠慮”? “わたしの気持ち”? “応えるつもり”……?

引っかかる言葉が沢山あって、眉間を寄せてしまう。

隣にいるしずちゃんに助けを求める。

「っ!」

「あ……」

目が合った瞬間、彼女は慌てて顔を背けた。

わたしを巻き込まないでね、と言うかのように。

「うぅ……しずちゃん……」

ひとりでこの人の相手をしろ、と?

「あー……その……」

とりあえず、顔のそばにある手から髪を取り戻す。
すると先輩は、

「衣装の心配もいらないよ。こちらで全部、用意しておくから」

手持ち無沙汰になった手で自分の髪をかきあげ、勝手に話を進めだす。

「いや、わたしっ……」

急いで断ろうとした。けれど、

「ああ、ヘアメイクも用意したほうがいいよね。親の知り合いでヘアメイクアーティストがいるから……」

先輩の耳に私の声は届いていないみたい……。

「あの! 先輩!」

声を張り上げた。お願いだから聞いて、と叫ぶように。

先輩は話すのをやめて、こちらを見てくれた。

ホッとして息をつくわたしは、ちゃんとした断り文句を考える。

でも、話し始める前に先輩はまた口を開いた。
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