劣化王子(れっかおうじ)

最終話:そんなキミの彼女になりたくて

ユノが倒れた日から1週間が経つ。

今はもう、お弁当は残さずに食べているみたいだし、疲れた様子もない。

うん、今もちゃんと楽しそうだし……。

「ユノくんばっか見てないで、早く食べなよ」

昼食時、お弁当箱を片付け始めたしずちゃんは、箸も持たないわたしに呆れているみたい。

ななめ後ろの席をこっそり眺めていたわたしは、仕方なく手鏡を机の中にしまった。

「鏡越しで見てないで話しかければいいのに」

「……いいの、今はこれで」

保健室でユノとどんな話をしたのか、しずちゃんには報告済み。

“痩せた姿を見てもらいたい”

「距離を置きたい」と言われたこと、嫌だと思っていても「わかった」とうなずいてしまったこと……。

黙って最後まで聞いてくれたしずちゃんは、ため息まじりでつぶやいていた。「なんで告白しなかったのよ」と。

言われて、わたしは告白していた場合を想像したんだ。

あのとき「好き」と言えていたらユノはどんな反応をしたのだろうか、と。

喜んでくれたのかもしれない。でも……。

“あの3年の言葉は間違ってないんだ。……果歩ちゃんにかばわれたとき、すごく自分が恥ずかしかった”
これまでを反省し、“今度こそ”はと本気でダイエットに取り組んでいる彼。

“オレ……意志が弱いから、果歩ちゃんと普通に話せる環境だと、また自分を甘やかしてしまうと思う”

そこまで考えているのなら応援したい。

ユノ自身が自分の体型に納得できたときに、ちゃんと気持ちを伝えようと思う。

きっと、その日は遠くないはずだ……。

「しずちゃん、これ食べてみて!」

自分で作ったおかずを、お箸でひと口分に切り分けた。

「何? ハンバーグ?」

「うん。豆腐の! 早起きして作ったの!」

応援しようと決めてから、自分なりに考えた。

わたしは遠くから見守ることしかできないのかな、って。

何かしたい。他にできることはないか。そう悩んで思いついたのが、料理だった。

「え……これ果歩が作ったの?」

「何その顔……ちゃんとレシピを見て作ったから、美味しいはずだよ!」

まずいと決めつけるしずちゃんは、口の前へ持っていっても、なかなか食べようとはしてくれない。

でも、恐る恐る口に入れてくれた後、嫌そうだった表情は一変し、口の動きも次第に速くなった。

「やるじゃん……普通に美味しいよ」
「本当? わたしも食べてみよ!」

「味見してなかったの? ……今度くれるときは、先に自分で食べてよね」

次の約束にうなずきながら、自分も食べてみる。

豆腐ハンバーグは想像よりも美味しくできていた。

ユノとの関係が元に戻ったら、残さずにお腹いっぱい食べられるお弁当を渡そうと思っている。

ヘルシーで美味しいものをたくさん作れるようになりたい。

そう考えて、お弁当を作ってくれるお母さんにも「これからは毎日、1品は自分で作るね」と宣言したんだ。

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