劣化王子(れっかおうじ)

「ダイエット中だったんだね……ハンバーガー屋に誘ってごめんっ!」

「……え」

わたしが待っていたのは「ダイエットするよ」のひと言だった。

なのに、彼は、

「そのハンバーガー、無理しないでね。代わりに食べるから!」

仏のような笑みでそう付け足してきた。

「……」

なんでわかんないの。

「……っ」

なんで気にしないの。

苛立ちをこらえきれず、わたしは大きな声で言う。

「少しはダイエットしたら!?」

最悪な展開だった。

本当はさりげなく、体型を気にするように仕向けたかった。

わたしも太ったから一緒にダイエットしようよ。そんな言葉まで用意していたんだよ。

こんなふうに傷つける言い方はしたくなかったのに……。
怒鳴ったわたしをびっくりした表情で見つめるユノ。

もう、ここにいたくない。

「……帰るね」

すぐさまカバンを持って店を出た。

呼び止めるしずちゃんの声も無視して、急ぎ足で歩いたの。

わたしはどんどん嫌な子になる。

相手の体型を気にするってだけでも嫌な女なのに、太った人にあんな言い方までして……。

「最低」

自分にそう言って目をぎゅっと閉じる。

そのときだった。

「……!」

後ろから誰かに手首を掴まれたの。

びっくりして振り向くと、そこにいたのは、

「待てっつってんのに……」

大きく肩で息をする鮎川だった。


< 51 / 204 >

この作品をシェア

pagetop