ロマンスにあけくれる



階段を降りた先。最初に見えてくるのは下駄箱だ。

そのまた廊下を奥に進んだ突き当たりに、職員室が見えてくる。



「都裄くん、ほんとごめんね。あと、ありがとう」

「そんなに何回もお礼言わなくていい。……ただの気まぐれだし」

「そっか。なら、その気まぐれに感謝だね」



とんとん、とローファーに上手く入ってくれない踵と格闘しながら、ふと無意識に落とした言葉。

だからてっきり、何も返ってこないと思っていたのに。



「………、花穂さん、もっと喋ればいいのに」



そんな呟きがぽつりと落ちてきて、一瞬手を止めた。


「え?わたしにこれ以上お喋りになれ、と?」

「いや違くて。……普段から、それくらい喋ればいいのに、って思って」

「あー……、なんか、こう、いっぱい人がいると、ついつい口を閉じがちって言うか。少人数でちょっと話してたら緊張が緩くなって、だんだんお喋りになってくるから、普段から、っていうのは難しいかなあ」

「ふうん。……なら僕も、自分の気まぐれに感謝しとく」

「?そっか」


なんのことを言っているのか分からなかったけど、とりあえず頷いておいた。


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