稼げばいいってわけじゃない

第9話

「お父さん、早く早くー。」


 晃は、駐車場に停めた車の後部座席から、水着のバックを3人分持って、瑠美、塁にそれぞれに持たせた。


「お父さん、ゴーグル持ってきた?」


「え。見てないけど、瑠美確認してきたの?」


 晃はがさこそと袋をのぞく。


「いつもお母さんやってくれるもん。入ってなかったら、ゴーグル買ってよ。つけないと目がかゆくなるんだよ!!」



「そうなんですか。わかりました。よく探してなかったら、買うから。塁はあるの?」


「え、僕はゴーグルいらないよ。今、顔を水につける練習してるから。幼稚園のたっくんがもう、できるようになったんだって。僕もできるようにならないと!!」


「よし、塁はがんばれよ!! さて、瑠美のバック見せて、見てみるから。」


「はい。見てよ。」


瑠美は晃にバックの中身を見てもらう。


「あ、思い出したんだけど、学校だわ。ゴーグル。」


「なんで?」


「学校と水着が違うから、ゴーグルひとつしか持ってなくて、あっちのプールバックだ!だから、買ってくれないと困る。」


「わかった。買うから。無いんだもん
な。仕方ない。」


「よかった。」


「瑠美、1人で更衣室入れるよな? 俺、男だから、
一緒に行けないけど大丈夫だよね?」


「学校で1人で着替えてるもん。平気だよ。」


「しっかり鍵閉めるの忘れるなよ。はい、これ、コインロッカー用の100円。」


「ありがとう。」


「今、入場料払ってくるから、塁と一緒にいて。」


「はいはい。」


 塁は早くも黄色いプール帽子をかぶって準備していた。

 瑠美はため息をついて、呆れながらも一緒にいた。



「ほら、払ってきたぞ。あと、プールの方に行ったら、大プールで待ち合わせね。んじゃ、瑠美あとでな。」


 「瑠美バイバイ!」


 塁は手を振って別れた。

 塁は男子更衣室に嬉しそうに行く。その後を晃は着いて行った。


 瑠美は手を振って、プールバックを持ち直した。


「ねぇ、お父さん。瑠美大丈夫かな。」


「お姉ちゃんだから大丈夫だって。人の心配するより、自分のことな。塁、1人で着替えるんだぞ。」

「わかってますよー。それくらい!!」

 と言っていた塁。

 更衣室に着くと、あれやってこれやってのオンパレード。

 さっきの意気込みはどこにいったのか。

 晃はため息ばかりがこぼれていく。


 結局は父である晃がほとんどの服を脱がしては、水着を着せてという状態になった。


 手がかかる息子だとつくづく思う。

 普段、この子を見てるのは母の絵里香であって、体力を要するなと感心させられる。


 着替えを終えて、晃と塁はプールサイドに行く。


 軽く準備体操をして、シャワーを浴びる。


「お父さん!こっち。」

瑠美は早々に準備をして、大プールの方に行っていた。

 塁も一緒に晃へ着いていく。


「瑠美、準備するの早いな。ここ深いけど自分で行ける?」


「うん。大丈夫だよ。私、もう大体は泳げるし。」


「そっか、んじゃ、塁と俺、あっちの方に行くから。監視員の人いるからふざけちゃだめだぞ。」


「はーい。」


瑠美はやけに素直だった。
晃は塁を連れて、お子様向けの小さな浅いプールの方に行った。

 そこにはまだ2歳くらいの子どもを連れたママさんがいた。

 晃は豊満な胸に目のやりどころが困った。

 水着も結構オシャレで絵里香には着れなさそうなものだった。

 軽くペコっとお辞儀をして、塁を引き連れてチャプチャプとビート板を使って泳がせた。

「お父さん、見て!!僕、目をつけて泳ぐよ。」

「はい、見てる見てる。」

 
 塁はバシャバシャ言いながら、親子連れの近くまで泳ぎに行く。

 晃は見ているとヒヤヒヤした。ご迷惑をかけるんじゃないかと思う。



「お父さん!!できた!!」

 大きな声でこちらを向く。

「上手だねぇ。」

 近くにいたママさんが塁のことを褒めてくれた。


「あ、すいません。」



「だいじょうぶです。」


 2歳の女の子はチャプチャプして、顔に水がかかるのが楽しいそうにしている。

「2歳くらいですか?」


「はい、そうなんです。今日がプールでデビューなんです。」


「そうなんですか。すごい、怖がらない
ですね。」



「お庭でプールはするんですけどね。好きみたいです。」


キャキャキャとすごく嬉しそうにする女の子。


「僕、泳ぎ上手だね。」

「そうでしょう、そうでしょう。いっぱい練習してるから。」


塁は変なことを言っている。


「練習するんだね。すごいねー。」

褒められて鼻が高々の塁はニコニコしていた。

晃はなんだかんだ言って、話が盛り上がり、その女性と仲良くなった。いつの間にか、塁をそっちのけで、1人、ベンチで話し込む。瑠美も1人で泳ぐのが飽きて、晃を探すが見えなくなる。

よく見ると知らない女性と話していた。


「お父さん!!ウォータースライダー滑りたい。」


 話してる途中で晃は呼ばれた。

「え、何、滑り台?いいよ、瑠美、やっておいで。」

「1人で行けない。着いてきて。」

「まじか。んじゃ、そろそろ行きますね。」

「お話ありがとうございます。」

 プリっと胸が大きいお姉さん。瑠美はじーと晃を見る。何だかイライラしてきた。

「お父さん、おっぱい大きいひと好きだよね。」


「はあ? 何言ってるの?たまたま話が盛り上がっただけだって。勘違いするなよ。」

「おとうさーーーん。おいてかないでよ!!!!」

塁が遠くから走ってくる。




「ばか、塁、走っちゃダメだって。」




びたん!!


 顔から転んだ塁。
 鼻から血が出ていた。
 涙がとまらず、ギャンギャン泣く。



「あーあ。言わんこっちゃない。」



 そっと手を差し伸べて、起こす。膝や肘も擦りむいていた。医務室の方へ塁を連れて行こうとだっこをして連れていく。


 前途多難な1日になりそうだ。


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