溺愛社長とお菓子のような甘い恋を

そして、仕事が終わり帰り支度をしていると社長が声をかけてきた。

「今から空いているか?」
「はい。残業ですか?」
「いや、買い物に付き合ってもらおうかと思って」

社長の言葉に首をかしげる。
社長の買い物に付き合うの? なんで?

「パーティーで着る大園の服を買いに行こうと思ってさ」
「えっと……、友人の結婚式で着たワンピースではダメなんですか?」

家にピンクのフォーマルワンピースがあったので、それを着ようと思っていた。

「駄目ではないけど、せっかく付き合ってもらうんだし俺に選ばせてよ」

社長は上から下まで一式選んで購入してくれるつもりらしい。
私は首をブンブン横に振って断った。
さすがに社長の都合で行くとはいえ、全身買ってもらうわけにはいかない。
しかし社長も譲らなかった。

「友達も俺の好みを少なからずわかっている。だからそれに合わせてほしいんだ」
「あぁ、なるほど……」

そう言う理由か。
どうしようかと思ったけど、それならばと購入してもらうことにした。
確かに恋人として連れていかれるのに、社長の好みとかかけ離れた女が来たら不自然だ。

ということで、社長の車で買い物へ出ることになった。
少し走らせると高級ブランド店が立ち並ぶエリアへやってくる。
まさかと思ったが、社長は当たり前のように車を止めてとあるブランド店へと入って行った。
ドアマンがサッとドアを開けてくれる。
社長についておずおずと中へ入った。
名前は有名なので知っているが、お店の中に入ったのは初めてだ。
ドキドキしていると、社長は店員に何やら声をかけ私にあうワンピースを見繕い始めた。

「ここら辺、いくつか着てみて」
「はい……」

高級ブランド店で着せ替え人形のようになっている。
試着するだけでも汚したりしわをつけないか緊張する。
社長に言われた通り、数着ワンピースを着ると「これだな」と淡いグリーンのプリーツが入ったワンピースをチョイスした。
実は私も試着の時に一番気に入っていたやつだ。

「私もこれ好きです」
「そうか、良かった」

目を細めて嬉しそうに笑う社長にドキッとする。
なんか社長の好みに染まるのが恥ずかしくなってきた。
社長はその店で靴もアクセサリーも鞄も全部そろえた。
金額は知らされていないが、到底ただのOLである私が払える様なものではない。
涼しい顔で支払いをする社長の後ろ姿に、さすがは大企業のトップだなと感心する。

「なんかすみません、全部買ってもらって」
「こっちの都合で付き合ってもらうんだ、これくらいは当然だろう」

社長は車を運転しながら横目で私を見てフッと笑う。
そして信号待ちになったとたん、気の抜けた声を出した。

「あぁ~、腹減ったな。飯食いに行かないか?」

時計を見るともう20時前。
確かにお腹が空いていた。

「そうですね、お腹空きましたね」
「近くにいい店があるんだよ」

そう言う社長に連れてこられたのは、個室の和食レストランだった。
居酒屋でもなく高級過ぎず、大人な隠れ家といった雰囲気が素敵だった。
通された座敷で、社長はメニューを見ながら肩を落とす。

「酒が飲めないのは痛いけど仕方ない」
「代行使います?」
「いや、いい。代行とかタクシーってなんか気を遣って話しにくくないか? お前とゆっくり話せない感じになるのは嫌だ」
「……そうですか」

私と話したいの?
他の人の目を気にせずにゆっくり?
なんだろう、胸の奥がむずむずする感じがする。
頬が緩みそうなのを必死にこらえた。
食事を終えた頃にはもうすっかり遅くなっていた。
でも楽しくて充実した時間だったなと振り返る。
社長は車で私を家まで送って行ってくれた。

「わざわざすみませんでした」
「いやいいよ。こっちこそ付き合ってもらって悪かったな」
「いえ、楽しかったので」

フフっと笑うと、社長が「そうか、楽しかったか」と嬉しそうにする。

「マンションの中に入るまで見ていてやるから早く行け」
「わかりました。じゃぁおやすみなさい」
「おやすみ」

社長の気遣いに胸が高鳴る。
仕事中は厳しいくせに、こういう時は優しくなるから調子がくるってしまう。
オートロックを開けてマンション内へ入り振り返ると、社長が軽く手をあげて車を発進させていった。
ただの秘書なのに、こんな風に扱われると戸惑ってしまう。
もう少し一緒に居たかったと思うなんて、ただの気のせいだ。

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