溺愛社長とお菓子のような甘い恋を

4.カモフラージュかも?


「あ、社長、あまり食べ過ぎないで下さいね。夜の会食で食事が入らなくなりますよ」

神野社長が二つ目のいちご大福に手を伸ばそうとしていたので、ストップをかけた。

「……」

顔が何か言いたげに不満そうにしつつも、渋々と大人しく箱に仕舞う。
最近、三時ごろにおやつを出すことが恒例になりつつあった。
甘い物をあげると社長が嬉しそうにするから、つい買ってきてしまうんだよね。
眉間にシワを寄せながら仕事をしている社長の表情が緩む時が結構好きだったりする。
餌付けって、こんな気分なのかしら……。
なんか、楽しい。

「会食って、島田フーズか。あそこの社長も狸でやっかいだからな。あまり、ひとりでうろうろするなよ?」
「わかっています。社長も、秘書は女性と聞いたので気を付けてくださいね」

社長は「はーい」と間延びした返事をして、デスクに戻った。
最近、こうして会食にも同行する機会が増えた。
秘書として仕事が増えていくと言うことは、それだけ社長の役に立てていると言うことだ。
仕事ができるようになってきて、私自身も少し余裕が出てくる。
鼻歌交じりに給湯室で洗い物をしていると社長が入ってきた。

「どうしたんですか?」
「ちょっといいか。大福の粉、ついてるぞ」
「え?」

指摘されて唇をぬぐうがまだついているという。

「全然とれていない」
「え、どこですか? とれました?」 

困っていると社長は「ちょっと触れるぞ」と呟き、覗き込んで私の唇の横をそっと拭った。
手が唇の端に軽く触れて、ドキンと胸が鳴る。
カァァっと頬が熱くなった。

「取れた」

ニヤッと微笑むと、社長は何事もなかったかのように社長室へ戻って行った。
一人給湯室に残された私は挙動不審になる。
何あれ、少女漫画のよくあるシーンみたい。
でもそれが大福とか……。恥ずかしすぎる。
しかし、何より社長に唇を触れられて顔が真っ赤だ。
キスされるかと思った……。
そんなことあるわけないのに。

「うるさい、心臓」

ドキドキと鳴っている心臓に文句をつけた。

心がみだされたまま、夜の会食時間になった。
予定通り、島田フーズの社長と料亭で会うことになっている。
政財界も利用するという、有名料亭に来る日が来るなんて……。
立派な入口に圧倒されつつ、神野社長について中へ入る。
通された和室で5分ほど待っていると、会食相手の島田フーズの社長がやってきた。
神野社長が狸といっていたので、どんな人かと思っていたけど見た目のことだったのか。
丸々と太った、狸の置物に似た人だった。

「いやぁ、お待たせしたね」
「いえ。本日はお誘いいただきましてありがとうございます」

神野社長とともに、深々と頭を下げる。

「こちらは、うちの新しい秘書で大園と申します」
「初めまして。大園と申します」

挨拶をすると、島田社長はニヤッと笑った。
そして私をじろじろと見てくる。

「綺麗な子だな。こっちはうちの秘書で姪の綾香だ」

姪が秘書をしているの?
綾香さんはニッコリ微笑んで会釈した。
20代半ばくらいの少し派手なメイクだけれど、とても綺麗な人だ。
島田社長の姪とは思えない。

「わぁ、本物の神野社長だぁ。先日、雑誌を拝見いたしました。とても素敵で、お会いするのを楽しみにしていたんだすよ」
「見てくださったんですか。ありがとうございます」

キャピキャピと声を上げる綾香さんにニッコリと営業スマイルを向ける。
うーん、なかなか癖のありそうな人たちだな……。

豪華な料理に舌鼓を打ちながら、社長同士は他愛ない話の合間に様々な情報を入れ込んでおり、私もそうした部分を聞き逃さないようにしていた。
ただの会食も、情報交換の大切な場ではあるんだよね。
お酒がなくなりそうだったので、席を立って女将さんに声をかけに行く。
その帰りにトイレへ寄った。
出てくると前から島田社長が千鳥足で向かってくる。

「大丈夫ですか? お水を頼んでおきますね」
「おお、大園さんかぁ。いやぁ、神野君は美人秘書をそばに置けて羨ましいなぁ」

そう言いながら私の肩に手を置く。
そして、いやらしい目つきで上から下まで舐めるように見渡した。
うわっと思ったがもちろん口には出さない。

「どうだ、俺の秘書にならないか?」
「まぁ、ご冗談を。島田社長には綾香さんという綺麗な秘書がいるじゃないですか」
「姪なんてそばにおいても面白くない」

面白くないって……、どういう意味だ。
姪だろうがその他だろうが、秘書は秘書。面白いも何もない。
すると島田社長はスッと私の腰に手を回し、トイレ方面へ誘導しようとする。
腰をさするように撫でられて鳥肌が立つ。
気持ち悪い!

「し、島田社長。私もう戻りませんと……」
「まぁまぁ」

なにがまぁまぁだ。
ぐいぐいとトイレの方へ連れて行こうとする島田社長に力を入れて抵抗するが、そこは酔っていても男の力だ。かなわない。
トイレに連れ込まれたら何されるの……。
ヒンヤリしたものが背中に垂れる。
相手が相手だから、大声出して拒否するわけにもいかないし……。
どうしよう!

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