恋をしているのは内緒~報われないと知っているから~
「ちょっと一息入れようか。休憩!」

 女性社員四名でミーティングをしている最中(さなか)、煮詰まってきたところで先輩のひとりが声を上げた。
 なにか良い案を出そうとみんながんばってはいるものの、先ほどから全然進まなくなっていたからだ。

 私の名は伊月 心美(いづき ここみ)
 年齢は二十五歳で、ゲームソフトの販売や開発を手掛ける会社である株式会社プレイテックスで働いていて、プロモーションや宣伝を行う広報部に所属している。

「喉が渇きましたよね。冷たいお茶でも淹れてきますね」

 私はノートパソコンをそっと閉じ、先輩たちににこりと微笑んで椅子から立ち上がった。
 だがそこへひとりの男性がふらりと現れ、全員の視線が自然とそちらへ集まる。

「これ、よかったらみなさんでどうぞ」

 やってきたのは営業部の社員である相楽 十亜(さがら とあ)で、老舗の店名が書かれた菓子折りの箱を先輩社員の浦田(うらた)さんに手渡した。

「え、なに? どうしたの?」

「水まんじゅうです。和菓子屋の前を通りかかったら目に入ったんで。先輩たちに食べてもらいたくて買ってきました」

「やだ、かわいい~!」

 浦田さんが箱を開けると、宝石のように綺麗な色とりどりの水まんじゅうが並んでいた。
 カスタードクリームやフルーツなど、さまざまな味が楽しめるように詰め合わせてあり、頭が疲れている今の私たちにとっては最高にうれしい差し入れだ。
 
 浦田さんが『かわいい』と表現したのは水まんじゅうのことだろうけれど、相楽くんに向けての言葉だったのかもしれないなとふと思う。
 私と同い年で同期入社の相楽くんは、上司や先輩に対しては常に礼儀正しいからかなり気に入られているし、人当たりの良い性格なので後輩たちからも懐かれている。

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