会ったことのない元旦那様。「離縁する。新しい妻を連れて帰るまでに屋敷から出て行け」と言われましても、私達はすでに離縁済みですよ。それに、出て行くのはあなたの方です。
 これまで公爵子息としての立場の上に胡坐をかき、横暴のかぎりを尽くしてきた。それが、一瞬にして消え去ったのである。

 彼に残っているのは、愚かさだけ。

 おそらくは、後悔や反省の念は抱かないだろうから。

 そのとき、居間のガラス扉の向こう、つまり外から喧騒がきこえてきた。

(到着されたのね)

 その喧騒が意味することは明白である。
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