悪女がお姫さまになるとき

3、キス

 子供たちが騒ぐ声がする。
 しかりつける女の声。
 近所の子供たちは休みの朝は早い。

 瞼をすかして朝日を感じ、頬が日差しを受けて温まって気持ちがよかった。
 深い眠りから覚めるときの独特のけだるさがまったりとまとわりついていた。
 このままベッドに抱かれるように沈み込んだまま、しあわせな夢の名残をいつまでも味わいまどろんでいたいと願う。

 扉が軋み誰かが部屋の中に入ってきた。
 父も母も弟も、わたしが寝ている間に部屋に入ってくることはない。
 急激に夢の世界から引き戻されていく。
 夢から覚めたくない自分と戦った。

「……□△●%^&」

 低く静かな言葉の響きに聞き覚えがあった。
 その音を捕まえようとしても明確に捕まえきれないところも、覚えのある感覚だった。
 不意に昨夜のことを思いだした。
 暗がりの中、やみくもに逃走しようとして、失敗したのだった。
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