君は私のことをよくわかっているね
「申し訳ございません。龍晴様のお手をわずらわせるつもりはなかったのですが」

「そんなふうに思う必要はない。桜華の痛みは私の痛みだ。こうして様子を見に来るのは当然のことだよ」


 龍晴様が爽やかに微笑む。わたくしの胸がチクリと痛んだ。


(『桜華の痛みは私の痛み』か……)


 なるほど。
 けれど、そう仰る割には、龍晴様がわたくしの――妃になるという願いを叶えてくれることはなかった。痛みに寄り添ってくれることはなかった。


『桜華は特別な女性だ。神聖で、決して汚してはならない美しい人だ。皇帝の私ですら君を手折ってはならない――――だから、この後宮で大事に大事に慈しむよ。私の子が成人し、私が皇位から退いたら、離宮でふたりきりで暮らそう』


 昨日、龍晴様はそう仰っていたけれど、これではまるで、わたくしは龍晴様の愛玩動物みたいだ。彼の都合よく動く人形と同じ。それをよく言えば『神聖な』という言葉に置き換わるというだけ。つまり、中身はまるで求められていない――少なくとも、わたくしにはそんなふうに思えてしまう。


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