雨の中、些細な恋を君と誓う



 雨が降る前、私と楓くんは夏休みの補講を終えて、吹奏楽部の楽器のいろんな音が無数に響いている誰もいない廊下を歩いていた。
 補講の授業も私と楓くんだけだったから、1時間、数学の問題が書かれたテスト用紙を何枚か書き、それを提出して、補講が終わった。

「おつかれ。ようやっと、俺たちの夏休みが始まったな」
「そうだね、おつかれ」

 私は楓くんのことを意識しすぎて、そう返すことしかできなかった。そう返しながら、私の左側を歩く、楓くんを見ると、楓くんはだるそうに微笑んでくれた。耳元の銀色のビアスが一瞬、反射した。きっと、普通の学校生活だったら、楓くんとは、話すことなんてなかったかもしれない。クラスだって別々だし、1軍の雰囲気が漂っている楓くんと、2軍で地味な黒髪ボブの私が交流を作るなんて、未知との遭遇ぐらい困難なことだと思う。
 そんな余計なことばかり考えを持っていかれ、本当なら会話を続けたいけど、その次の言葉はいまいち、思いつかなかった。 
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