神様の寵愛は楽ではない

 美奈であったものは、骨片の欠片まで分解されながら、なおもそこに留まっていた。
 幾星霜が過ぎる頃、枝に花芽をつける頃に、とうとう美奈であったことを手放した。

 再び月日は巡る。
 それに意識がめばえたのは、土のなかであった。
 必死で起きている大半の時間を、目の前にあるものを口にしては吐き出しつづけていた。
 美奈は、ミミズであった。
 それもミミズの基準からしてみれば、とんでもなく醜いミミズであった。
 なぜなら普通のミミズならば白っぽい色が地肌の色なのに、鮮やかな桜色の斑ミミズだったからだ。

 桜色のミミズは仲間からは醜いヤツと毛嫌いされた。
 一方で、植物たちは、彼らが栄養にできない大きな土の中の葉を噛み砕いて、吸収しやすい大きさにまでこなし、なおかつ、空気の道を沢山つくってくれるミミズの美奈に、ほかのミミズと分け隔てなく感謝した。
 美奈はそれがうれしくて、ほかの仲間たちが嫌がる固い道を歩き回って耕した。
 美奈は、その地に根ずく植物たちに愛された。


 あるとき美奈は、蝶であった。
 サナギから羽化した時に、不幸な事故があった。
 綺麗に伸ばされるはずの羽が、枝につっかえて片方だけはぴんと伸ばしきれなかった。
 同じ夜に羽化した仲間たちは空をひらりひらりと優雅に舞う。
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