いつも側にいてくれたね


「直生は私のことを守りたいって言ってくれるでしょ。もしかして、遥生と同じ私立高校に行かずに私と同じ公立高校に進学したのも私のことを思って・・・? いや、そんな事ないか。ごめん、図に乗った」

「ああ、それね。うん、正直に言うと夏芽の言う通りだよ。遥生もそうしたかったと思うんだ。でも僕が押し通してしまったから。ここにいるのが遥生じゃなくてごめん」

「なっ、何を言い出すのよ直生。直生で良かったの。本当に一緒にいてくれるのが直生で・・・」

直生は私の口に手を当てて、私にその先を言わせない。

「もうそれ以上何も言わないで、夏芽。また僕の感情がぐちゃぐちゃになる」

直生はどうして私のことをこんなに思ってくれるんだろう。

『直生はあんなに夏芽のこと全身で好きだって表現してるのに。どうしてそれを分かってあげられないのよ』

今朝、綾乃に言われた言葉を思い出す。

直生が私のことを好きだなんて、そんなはずない。

直生の私に対する「好き」があるとするなら、その「好き」は生まれた時からずっと一緒にいる幼馴染に対しての「好き」だよね。

私と同じなんだよね・・・。

直生の気持ちを確かめたいけど、そんなこと聞けない。

そんなことをずっと考えていたら、いつの間にか直生が大きな絆創膏を腕に貼り付けてくれた。

「はい。処置終ったから。夏芽は他の服に着替えて。そんな袖の破けて血だらけの服を着ていたら皆に驚かれちゃうよ」

直生はそう言うと私の部屋から出て行こうとした。

「直生、待って。行かないで」

何故か分からないけど、私は咄嗟に直生を引き留めた。

「なに、夏芽。着替える所を僕に見ていて欲しいの?」

直生の言葉でハッと我に返った。

「え、は? ちっ、違うから。私、なに言ってんだろ。直生、早く出て行って!」

直生の態度がいつもの直生になっていたから、今はこのままでもいいのかなって思ったの。

今は、まだ。

直生が笑いながら部屋の外に出ると、急に淋しくなってしまって。



『直生、どこにも行かないでね』


何故かそう呟いていた。


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