いつも側にいてくれたね


そんなやり取りをしている所に坂野くんがやってきた。

「今聞こえたけど、湯川くんと高田さんはお付き合いすることになったんだね。ほらね、両想いだったでしょ。思い切って告白して正解だったね」

「坂野くん、どう言うこと? 両想いとか告白とか」

今度は私が坂野くんに聞いた。

「あっ、これは俺と湯川くんの秘密だった。湯川くんごめん。もうこれ以上は何も言わないよ。じゃね」

坂野くんは私たちにそう言うと先に行ってしまった。

私は直生に説明してもらおうと直生の方に振り返った。

「直生と坂野くんの秘密って? 直生、どういうこと?」

「いや、僕も全く理解できてない。彼が何を言ってるのか見当つかないんだよな」

直生が誤魔化して嘘をついているとは思えない。

「それよりもさ、僕と夏芽が付き合ってるって噂になったら困るよね。どうしたらいいかな」

直生は何かブツブツ言いながら私を残して歩き出した。

教室に入っても皆の話題は私と直生のことで持ちきりだった。

「ちょっと夏芽! あなた達のことが話題になってるんだけど。これって本当なの? 夏芽は直生を選んだってこと?」

綾乃が真っ先に駆け寄ってきて小さい声で話し掛けてきた。

「違うよ、全然違うの。私も直生も何がどうなっているのか分からなくて」

「そうだったの。じゃ、この騒ぎはなんだろうね」

綾乃は私の言葉を信じてくれた。

そして言葉を続ける。

「遥生がこの噂を聞いたらショックなんじゃないの?」

「遥生・・・が。 ううん、そんな事ないと思うけど」

遥生には好きな人がいることを知っているから、こんな噂を聞いたって遥生は何とも思わないよ。

「そんなことは無いって。もしここに遥生がいたら大変だったと思うよ。違う学校で良かったよ、遥生」

綾乃は何も知らないから。

遥生には想う人がいるって知らないから。

直生との噂で騒がれていることよりも、遥生が遠い存在になってしまったことの方が悲しくて。

『俺はいつもここにいるだろ。淋しくなったらいつでも来いよ』

遥生、どうして私にそんなことを言ったの。

「ふぇっ。綾乃―、私、悲しいよ。もう遥生はなんなのよ。遥生のばかー」

「えっ、ちょっ夏芽。泣かないでよ。しかも直生じゃなくて何で遥生に当たってるのよ」

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