奇跡をくれた君へ
その場に取り残され、しばらく放心状態だった。ようやく状況が飲み込めてから、ほとんど無意識に咲に連絡する。
――咲が言ってたこと本当だった
ーーどうゆうこと?
――木島くんから来たメールが詐欺かもって話
――え、何それ。待って、芽生今どこ?
場所を教えてから少しして、焦ったような咲がやってきた。
「あれ、咲どうしたの?」
「どうしたのじゃなよ!さっきのメール本当なの?」
さっきのメール。そっか、咲に木島くんのことを話したんだった。
「そうなんだよね。……騙されちゃってたみたい」
口にしたらなんとも馬鹿らしくなった。届いたメールに一喜一憂して、鵜呑みにして。思えば最初からおかしかった。連絡先が消せない?そんなはずはない。もっと注意深くなるべきだった。ちゃんと連絡先の消し方を調べて、自分から消すべきだった。
それなのに、スマホを買ってもらったことに舞い上がって。騙されて。本当にどうしようもない。
「信じてたんだけどなあ」
口からこぼれ落ちた言葉を口きりにして、涙が止まらなくなった。
メール上でのやり取りだったけど、信じてた。木島くんの温かいであろう人柄が滲み出ているような、文面。咲と喧嘩した時にくれた、励ましの言葉。たまに送られてくる、日常風景を切り取ったような写真。全部、全部好きだったのに。
恋なんて言葉じゃ片付けられない。私と似た感覚を持つ人に、偶然だけれど出会えたと思って嬉しかったのに。どうしようもなくやるせない気持ちが広がって、暗い海の底に沈められて行くみたいに、息が苦しくて、全身が重くなる。
「芽生……」
そっと、咲が抱きしめてくれた。少し気持ちが軽くなるような気がする。でも、それだけでは足りなくて。
やっぱり会いたかった。メールの中の木島くんに。でも、さっき会った本人はそんなこと知らない。そのことがどうしようもなく苦しい。
そうしてしばらくは涙が止まることはなかった。