アリンコと佐藤くん

5 劇場版『もこフレ』!

 客席は小学校にあがる前くらいの子どもたちでいっぱい。
 あとはその子たちのお父さんやお母さんで、中学生はあたしたちしかいないみたい。
 佐藤くん、いっしょに映画観るって言ってくれたけど、さすがにこのフンイキじゃ途中で出ちゃうか、寝ちゃうかもしれないな。
 今度という今度は、やっぱりあたしとは合わないってハッキリ言われるかも。
 照明が落とされ、いよいよ映画が始まった。
 大きなスクリーンいっぱいに、パステルカラーの『もこフレ』たちがあらわれると、会場の子どもたちから、わあっと歓声があがった。
 わぁー、やっぱりかわいいなあ『もこフレ』!
 あたしも会場の子どもたちと同じくらいワクワクしてるよ。

 映画のストーリーは、こんな感じ。
 ふわモコフレンズ――通称『もこフレ』たちは、ふわモコの町っていうところで、みんなでなかよく暮らしていたの。
 だけど、メルルンとボアボアがささいなことをキッカケにケンカしちゃうんだ。
 怒ったボアボアは、ひとりふわモコの町から出て行っちゃった。
 メルルンやみんなは、いろんなところに行ってボアボアを探すんだけど、結局、ボアボアは見つからなくて。
「どうしよう、みんなあたしのせいだわ! あのとき、ちゃんと仲直りしておけばよかった」
 悲しむメルルンに、
「だいじょうぶ! ボアボアはぜったいに見つかるよ。あんなになかよしだったんだもん。心をこめてあやまれば、ボアボアにもきっとメルルンの気持ち、伝わるよ!」
 とはげます仲間たち。
 ボアボア、どこに行っちゃったんだろう?
 あたしもハラハラしてきて、つい画面に観入っちゃうよ。
 そうだ! 佐藤くんは? 
 やっぱりそろそろ退屈になってきちゃったかな……。
 チラッ、と横目で様子を見てみると。
 あれっ、起きてる。
 それも、すっごい険しい顔つきでスクリーン見つめてる。
 つまらなくて機嫌が悪いとか?
 佐藤くんの様子が気になりながらも、続きを観ていくと。
 メルルンは、ボアボアが銀河の果てにある惑星に出かけて行ったって仲間から聞いて、ひとりでロケットに乗って宇宙に飛び出すの。
 隕石にぶつかりそうになったり、何度もピンチに遭いながらも、メルルンは銀河の果てにある惑星にたどり着き、ボアボアと再会。
「メルルン、どうして来たんだ! ひとりでここまで旅するなんて、なんてキケンなマネを!」
 驚くボアボアに、
「だって、あたし、どうしてもボアボアに会って仲直りしたかったの! ケンカしたまま、もう二度と会えないなんて、そんなのさみしすぎるもん! ボアボアこそ、どうしてこんな遠いところに出かけて行ったの? そんなにあたしのことがキライだったの?」
 と泣き出すメルルン。
 涙のメルルンに、ボアボアは虹色に輝く花を差し出す。
「オレ、この花を取りに来たんだ。この星には宇宙一キレイな花が咲いてるって聞いたから。メルルンともう一度仲直りしたくって。受け取ってくれるかい?」
「ボアボア……!」
 ケンカしていたふたりだったけど、おたがいを深く思いやっていたことが分かり、めでたく仲直り。
 ふたりはなかよく仲間のいる星に帰って行くの。
 一時はどうなることかと思ったけど、ふたりが仲直りできてホッとしたよ。
 観ているこっちまで、ジーンときちゃった。
「うっ……うっ……」
 客席からすすり泣く声が聞こえる。
 分かる分かる。ラストの場面、とっても感動的だったもんね。
 でも、ちょっと待って……このすすり泣き、あたしのすぐとなりから聞こえる。
 まさか――。
「よかったな、メルルン。無事に再会果たせて」
 佐藤くんが、ハンカチで一生けん命目元ぬぐってる!
 さっきから泣いてるのって、佐藤くんだったの?
「ボアボアもなかなか漢気あるじゃん。目つき悪いなんて言って悪かったな」
 佐藤くんは、涙ぐみながら ボアボアのマスコットを大事そうに手に乗せた。
 もう『まんじゅうの妖精』なんて呼んでない。ちゃんと名前まで覚えてる!
 佐藤くん、はじめから終わりまでしっかり観てたんだ。
 てっきり、つまんないって会場出ちゃうと思ってたのに。
 あたしといっしょに、真剣にこの映画楽しんでくれてたんだ――。
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