アリンコと佐藤くん

2 一難去ってまた一難?

 信じられない。
 今あたし、コワいから関わりたくないと思ってた男子にお姫さま抱っこされてる?
 ちがう意味でめちゃくちゃドキドキしてるんだけど……。
 このまま地面につき落とされたりなんてしないかな?
「てめー、ヒキョーだぞ! 逃げてんじゃねー、バカ野郎!」
「すみませんすみませんすみません~!!!」
 腕のなかでブルブルふるえてるあたしに気づいたのか、金髪男子は、チロッとあたしのほうに目をやって。
「ん? いや、チビちゃんに言ったんじゃねーよ。チビちゃんにぶつかってこようとした車に怒ってんだ。あぶねーとこだったな」
 ぶつかってこようとした?
 あ、そうか! このひと、あたしのこと、助けてくれたんだ。
 でも、チビちゃんって……ちょっとグサッとくるな。
「すみませんでした……助けてくれてありがとうございます」
 恐怖のドキドキに耐えながら、声をふりしぼってそう伝えると、金髪男子はゆっくりとあたしを地面に下ろして。
「どこもケガしてねーか?」
「は、はい……」
「ならよかった。車には気をつけろよ」
 ポンッ、とあたしの頭に手を置いた。
 あれれ? このひと、実は意外と親切なのかな……?
 そう思いかけたとき。
「でもよ、チビちゃん」
 金髪男子が、キッとあたしに鋭い視線を向けた。
「な、なんですか?」
 わああ。あたし、ヘビににらまれたカエル状態!
 金髪男子はみけんに深くしわを寄せたまま、
「こんな時間に、ちっちぇー子がひとりで雪んなか出歩いてんじゃねーよ! おつかいかなんか知らねーけど、もう六時とっくに過ぎてんだぞ? 暗いし、人通りも少ねーし、ヘンなヤツにさらわれでもしたらどーすんだ!」
 と、まくしたてた。
「ご……ごめんなさ――!」
 うわーん、やっぱりコワい!
 思わずペコペコっとあやまろうとしたとき、あたしの頭をよぎるものがあった。
 ちょっと待って。ひょっとしてあたし、小学校低学年くらいに思われてる?
「ほら」
 金髪男子は、急にあたしに背を向けてしゃがみこんだ。
「???」
 状況がまったく飲みこめないあたしに、
「乗れよ。家までおぶってってやる。雪道はあぶねーからな」
 おぶってって……?
 全身が、カーッ! と熱くなる。
 やだやだやだ! あたしもう中一だよ?
 同級生の男子、それもこんなコワそうなひとの背中におんぶしてもらって帰るなんて。いくらなんでもハズカシすぎるし、オソロシすぎる!
「そんなのいいですいいです! 全然大丈夫です!」
 あたしはブンブンと手と首を振り、力いっぱい断った。
「でも、親とか心配――」
「まったく心配無用です! バス停すぐそこですから、それじゃっ!」
 あたしはツルツルした雪道で転びそうになるのもかまわず、バタバタとその場から逃げ出し、目の前の停留所にちょうどやって来たバスに急いで飛び乗った。
「次は、市立病院前、市立病院前です」
 しまった、家と逆方向のバス乗っちゃった……。
 遅くなるってお母さんに連絡しとかなきゃ。
 それにしても、ちっちゃい子にまちがえられたうえ、おんぶされそうになるなんて。
 車にひかれそうになったのを助けてもらったのは感謝してるけど、ハズカシすぎてもうあのひととは顔合わせたくないよ。
 バスの窓から見える町並みはどこもかしこも真っ白。
 なのに、窓に映ったあたしの顔だけまるでトマトみたいに真っ赤で、よけいにみっともなくなっちゃった……。

「ただいまー」
 クタクタで家に戻ると、もう時刻は夜の七時半。
 ホントだったら、七時までには余裕で帰って来れるはずだったのに。
 はぁあ、おなかすいたよ~。
「おかえりー。乗るバスまちがえたんだって? あら、なにそのおっきな袋」
 あたしを出迎えたお母さんが、パッと目を見開いた。
 袋? そうだった!
 佐藤くんにあげるバレンタインのお菓子の材料。
 さっきのゴタゴタでつい忘れてたけど、あたしにはまだやるべきことが残ってたんだ。
 晩ごはん食べたらさっそくパウンドケーキ作りにとりかかろう!
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