拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。

王宮の散策


「お腹が膨れたところでバラ園の散策に行こうか? 結構歩くんだけど、大丈夫かな?」

 こんなこともあろうかとローパンプスを履いております。王宮は広いと先日来た時に思い知らされましたわ。廊下の端が見えないんですもの。それに本日は散策と聞いておりましたから対策はしてまいりましたもの。

「はい。ご心配には及びませんわ」

 ……って本当に広いです事。

「手を貸そうか? スピードが遅くなっている」

「……いえ。ご心配に及びませんわ」

 ようやくバラ園に到着しましたわ。頑張りましたわ!

「はははっ。疲れただろうね。休憩しようか?」

 見るからに疲れが出ているようですわね。笑わなくても良いではないですか……

 呼吸が落ち着けば回復しますでしょう……ベンチが併設されていて殿下と隣り合わせになる形で座る。王宮のメイドさん達が机を準備してくれて、果実水が目の前に置かれた。


「どうぞ。喉を潤すと良いよ」

「ありがとう存じます」

 ごくごくと遠慮なく果実水で喉を潤すと生き返った気分になりました。ふぅ。少し汗ばんできたので、恥ずかしながらハンカチで額の汗を抑えました。ベンチの後ろではメイドさん達が日傘を差してくれていた。なんて至れり尽くせりな環境なんでしょう。


「綺麗な刺繍だね。それは自分で?」

「はい。刺繍をしていると無心でやってしまってよく弟に怒られているんですよ。辺りが暗くなってもつい夢中になって指を刺して、また?! と呆れられることもあります」

「しっかりした弟さんだね。将来が楽しみだね」

「ふふっ。弟も妹も本当に優しい子達なんですよ。あの子達のおかげで楽しく過ごせていますの」



「ハリスくんだっけ?」

「え? えぇ、なぜご存知で?」

「図書館で会った時に名前を言っていたよ。リュシエンヌに似ていた。妹さんも似てるのかな?」

「双子なので似ているところはありますが、そっくりと言うわけではありませんわね。性格も違いますし」

「今度紹介してよ。そうだ、私の家族も紹介しようか?」


 ……殿下の家族? 殿下の家族と言ったら!? 無理ですわ!!! ロイヤルファミリーではないですか!

「あ。噂をしたら父上だ。父上ー!」

 ……ち、父上っ?! って国王陛下!?
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