拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。

「彼女は美しく努力家で、困っている生徒がいたら身分問わず声をかけるような優しい人だ。そんな彼女を慕っている生徒は多い」

「みんな騙されているんでしょう。彼女の親もうちの鉱山目当てで婚約を結んだんでしょう」

 アルバートの家は傾きかけている。鉱山を買ったまでは良かったが採掘費用が重くのしかかってきている。人を雇うのもお金がかかるし、そもそも思っている物が採掘されていないので借金が嵩んでいる。各所から不満の声も上がっているのだった。


「鉱山ねぇ……」

「それに、リュシエンヌの話は大した事ないし、違うといっても納得しないし、つまらないし、適当に聞き流していました。今考えてみてもとんでもない女ですよ……」

「彼女の話についていけなかっただけじゃないのか?」

 とぽつり言ってみるが聞こえていないようだ。
 
 
「あ、そろそろ私は失礼します。両親に今日のことを報告しなくてはいけませんから」

「あぁ、分かったよ。今日のことは公にしてくれるなよ」

「もちろん。殿下に迷惑のかからないようにしますよ」

 そういってアルバートが部屋を出て行った。その様子を見て思った。自分の家がどういう立場にあるのか、自分の婚約していた相手がどれだけ素晴らしい令嬢だったかということに。

 
 それにしてもリュシエンヌ嬢は本当に美しい令嬢だ。学園で話しかけようと思っても彼女の周りにはいつも人がいて話しかけることが出来ないからな。今回の事がきっかけで話しかけることが出来るだろうか。

 まずは挨拶から始めよう。声をかけても不自然ではないだろう。婚約破棄をされて傷心だろうからその心に寄り添えばいい。


 私は第二王子でいずれ爵位を貰い王家が所有する領地を経営することになる。その時はリュシエンヌ嬢が一緒にいて欲しい。誰にでも優しく優秀な彼女は領民にも好かれるだろう。今持っている領地の中では南の領地が心地良さそうだ。温暖な気候で作物もよく育ち避暑地としても人気がある。
 
 普段は領地で過ごし避暑を楽しむ貴族たちとのパーティーで情報交換をするというのはどうだろう。完璧な計画だな。

 
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