拝啓、元婚約者様。婚約破棄をしてくれてありがとうございました。

「そういうわけで、モルヴァン家への婚約の打診は無かったこととします。紳士として令嬢は守るべき対象だというのは一般的な常識です。王族とは平等に人の話を聞き片方に肩入れしないことが求められます。自分の気持ちも伝えられないくせに美味しいところを持って行こうなんて、情けない!」


「反省しています。ずっとそのことについては反省しています。ですから一生リュシエンヌに罪を償いながら、幸せにしたいと思っています。婚約の打診が無くなったらリュシエンヌは結婚できても、思い通りの相手とは結婚できないかもしれないのですよ」

 ……婚約破棄をされた令嬢と婚約をしたいという家は少ない。しかしリュシエンヌは若くて美しいからいないわけではない。後妻とか格下の家などリュシエンヌと釣り合わない人間と婚約するのは許せない。だから私が婚約するのが良いんだ。どうして分かってくれないんだろうか。


「それは貴方が考える必要はありません。出会いなんてそこらじゅうに転がっているの。出会いなんてね、引き篭もりじゃない限り自分の行動範囲の100メートル以内なの。貴族は家との兼ね合いがあって特殊だけど国民の殆どがそうなの」


「私とリュシエンヌの出会いも……そうでした」

「王族となるともっと特殊よ? 貴方のことを甘やかせすぎた私たちも悪いわ。ある夫婦が離婚若しくは国を出るという話もあるのよ……それが他の貴族に知られてみなさい? 苦言だけで済めばいいけれど、領民がそれを知り暴動になりかねないわ。その貴族の治める領民はどうなるの? ひと組の婚約破棄騒動が国を揺るがす大事件になりかねないのよ」

「……………………」


「貴方、責任を取ると言ったそうね? だから責任をとってもらいます」
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