前世ハムスターのハム子は藪をつついて蛇を出す

十二転び目 奪還

 ここはどこだろう?
 公花は弾かれたように瞼を開くと、どんぐり眼で周囲を見回した。

 目の前には金属製の格子。小動物用の檻に入れられているらしい。
 体はまだずんぐりむっくりハムスターのまま、変身は解けていない。

(私……そうだ、庭で捕まっちゃったんだ)

 その犯人である赤眼のアイツ──黒尾は、今は近くにはいないようだ。

 あの人ったら、人をつまみ上げたままツンツンつついたりしてからかってきて。
 「食べちゃうぞー」とばかりに大口を開けて顔を近づけてきたから、つい鼻っ柱を蹴っ飛ばしてしまい……。
 そうしたら怒りだして、大人げなくこちらの体を掴んでぶんぶん腕を振り回すものだから、公花は目を回して気絶してしまったのだ。

 その後、ここに入れられ閉じ込められたようだが、幸い怪我や、痛いところは特にない。むしろスッキリ寝て起きたから目も頭も冴えている……気がする。

 見張りの姿もなく、ひとまず緊張の糸を解いた。
 見たところ、ここは屋内の貯蔵庫のようだ。鉄柵の向こうには、玉ねぎやジャガイモなどの絵が描かれたダンボール箱が積まれている。

 おそらくは、蛇ノ目家の敷地内のどこか――だと思う。
 奇しくも家の中に入ることは成功したが、この檻から抜け出さねばどうにもならない。狭くて二、三歩、歩きまわるのがやっとの広さの箱の中を入念に調べ始めた。

 頑丈な既製品の檻は、天井部分と箱状の土台をがっちりと四辺の凹凸で噛み合わせるタイプ。自力で押し開けるのは難しそうだ。

(柵を削って壊せないかな……)

 えいやっとばかりに棒柱の一本に歯を立てるも、キーンと嫌な感触が頭の芯に響いてひっくり返った。

(あがががが! ダメ、大事な歯が折れる!)

 途方に暮れていると、壁の向こう、何者かがズンズンと廊下を進む気配がする。

(誰か来る……!)
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